No.88 花岡 澄代様(加古川中央市民病院)後編「専門職として自律した看護師を育てたい」

インタビュー

前編に引き続き、加古川中央市民病院の花岡 澄代副院長のインタビューをお送りします。

看護部の基本方針を大切に

加古川中央市民病院の看護師の特徴を教えてください。

花岡:当院は地域に密着した病院で、看護師は20歳代から50歳代まで、ほぼ同じ比率になっています。

この辺りに住んでいて、加古川地域が好きだという人が多いです。

大学病院のように、病院の近くに越してきて働くというよりも生活の場がこの地域、という方が多いですから看護師としてのキャリアと同じくらいに生活が大切で、それを両立しながら働くという考えを持っている方が多いように思います。

ただ、看護師はやはり専門職ですので、そうした環境や考え方の中でも、病院で働く事へのやりがいや向上心を持ってもらうように関わっていく事をしたいと思っています。

貴院の理念である「命の誕生から」という所、また看護部として掲げている6つの基本方針を実践するために心がけている事はありますか。

花岡:この基本方針は、そもそもトップダウンで作った物でありません。

それぞれの部門で自分たちのやりたい看護とは何かを話し合ってもらい、それを抽出してプロジェクトの中でまとめたものですので看護師の心の内を表現したものだと思います。

ですから、この基本方針を大事にする事が私にとっては一番大切にしたいことです。

その中でも、やはり患者さんが最良の選択をするためにどのように看護師が関わるかが大切で、それを考えて看護をできる人を育てたいと思っています。

看護師は皆、大学や専門学校で看護を学んできますが、それは一般に看護とは何か、看護師とはどのようなものかという事を考え学ぶ期間だと思います。

看護師が専門職として自律していくには、卒業してからが本番であり、個々が能力を開発、維持・向上を目指していくには、獲得した知識・技術を持って、経験を絶えず繰り返し実践していくことが大事だと思います。

それをサポートするという事が病院の責任でもあると思いますので、継続教育(卒後教育や現任教育)というものが非常に大切だと思っています。

病院内のキャリアラダーを登るだけでは看護師として最大限の成長は出来ません。

ジェネラリストとして実践の中で極めるという選択肢もありますし、看護管理、専門や認定の方向もあります。

また、大学への編入や大学院への進学も含めて、その人がそれぞれのキャリアを進めていくためにはどうすれば良いかを考えていく事を支援できる看護部でありたいと思っています。

あとは、働き心地が良くなければやりたいと思う事も出来なくなると思いますので、その人がその人らしく働ける環境を作るための部門管理も必要だと思います。

管理者は患者さんを守り、よりよい看護を提供する組織をつくらなければなりません。

また、同時に、患者さんを看る看護師を守るという事も求められます。

特に今のこの病院では看護管理者を育てるという事が大きな課題だと思っています。

そのために、看護管理者の育成のための「マネジメントラダー」を作成し、看護師の教育だけでなく、看護管理者の教育に関しても走り始めました。

管理者のラダーというのは珍しいように思いますが、どのような物なのでしょうか。

花岡:看護管理者の育成をめざしたもので、個々の看護管理者の能力開発と動機づけを行い、看護管理者として人材育成とキャリア開発を目指すものです。

看護管理者に求められる能力を2分し、基本的能力である「目標管理」「対人関係能力」と専門的能力である「看護の質評価」「教育・研究」「看護倫理」の5項目としています。

座学と実践の振り返りであるリフレクションを通じて段階的に進めています。

また、看護部長として日々私が行っていることは、私自身が持っている管理の経験値をもって、他の師長たちとコミュニケーションを通じて管理者としての価値観を共有していく事です。

ですから、報告や連絡、たわいもない話の中で知った師長の考え方や行動で、何か疑問を感じたとしても、どのように考えてその行動をとったのか、それでよかったのか、他に選択肢はなかったのか、など師長自身が振り返れるように関わっています。

ダメ出しをするのは簡単です。

自ら振り返ることが学びとなり、次に活かせます。その繰り返しで、一人ひとりが成長していただければ最高に幸せです。

また、私が師長とそうやって振り返りを行うことで、その関わり方が師長にも身につき、今後は師長が実際にスタッフと関わる時に活きてくるのではないかとも思っています。

考える事は人にとって大切です。

良いか悪いかだけでなく、どのように考えてどのような結果になったのかを考える事が成長に繋がります。

そういった機会をスタッフ一人ひとりに与えられる師長になってほしいと思っています。

看護補助者も看護のケアへ参加を

こちらの病院では看護補助者は採用されていますか。どのような役割を担っているのでしょうか。

花岡:人数は50人弱ほどいます。

本来の役割は看護師の補助なので、私は看護のケアに関わってほしいと思っています。

具体的には、保清や食事介助、見守りや患者の移送等に看護補助者の力を使ってもらいたいのです。

いずれも看護師の指示のもと、または共に実践していくべき内容だと思っています。

ですから、看護補助者に委ねる時には、看護師も患者をしっかりと見て的確に判断し、分担できる事か否かを判断する必要があります。

しかし、現実には判断が不適切なまま委ねて患者の安全にかかわるインシデントにつながることもあります。

今後、そうした教育にしっかり力を入れていきたいと思います。

日々お忙しいと存じますが、気分転換にされていらっしゃる事はございますか。

花岡:以前はテニスなどをしていました。

今は絵を描くことや、毛筆で手紙などを書くことに挑戦してみたいと思っています。

音楽も気分転換には良いですね。

花岡副院長からのメッセージ

最後に学生へ向けてメッセージをお願いします。

花岡:学生時代は、勉強をすることの意味が中々分かりにくいと思います。

しかし、私がこの年まで看護師としてやってきた中で学生時代ほど勉強できる時間はないと思います。

その限られた3年から4年の間を本当に大事にして、病態生理や疾患にはじまり、看護の基礎を身に着け、根拠をもって、しっかり考えることを学んでほしいと思います。

その時間は本当に重要だと思っていますので、大切に過ごしてほしいと思います。

シンカナース編集部インタビュー後記

花岡副院長は、18年もの長きに渡り、病棟と医療情報部という部門を兼務されたという大変貴重な経験をお持ちの方でいらっしゃいます。

「考える力」を活かし、単に物事を表面的にとらえ結果だけで判断するのではなく、「なぜそうなったのか」「どうすればよいのか」を徹底的に追及し、分析し、形にしていく。

その花岡様の姿勢からは強い熱意を感じるとともに、様々な新しい取り組みをされてきた開拓者であると実感いたしました。

今、管理者の方々にも「考える」ことの大切さを伝えていらっしゃいます。
管理者の方々からスタッフにもその考え方、習慣が浸透していくことにより、患者さん一人一人にあった看護を考える力、また実践力が培われ、よりよい看護の提供ができるのではないでしょうか。

花岡副院長、この度は素敵なお話をどうもありがとうございました。

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