No. 79 岡田 綾様 (順天堂大学医学部附属練馬病院) 後編:人を育てる教育制度

インタビュー
前編に引き続き、順天堂大学医学部附属練馬病院の岡田 綾看護部長へのインタビューをお届けいたします。

主体性を身につける

看護師が生き生きと働くための取り組みについて教えてください。

岡田:当院看護部の教育理念は「自ら考え、判断し、行動する」です。プロジェクト学習とポートフォリオ実践の第一人者である鈴木敏恵先生が提案している学習方法を取り入れて、主体的に行動する看護師の育成に取り組んでいます。

プロジェクト学習を進めるにあたって、集合研修とOJTを繋げる試みを行い、新人も私も全員が成長のためにポートフォリオを作っています。

ポートフォリオの活用について詳しく教えてください。

岡田:ポートフォリオは自分の実績を可視化し、俯瞰するためのツールです。

はじめに自分のビジョンを描き、ゴールを設定し、そのゴール達成のための具体的計画を自分で考え、実現に向けてやる気を高めていきます。

そして、自分の実践メモや資料、時には先輩からもらったフィードバックの付箋など、つぎつぎに時系列でポートフォリオに入れていきます。集合研修では、みんなの前でポートフォリオを見せながら発表することもあります。

自分で課題を作って解決するという学習方法ですね。

岡田:そうですね。ポートフォリオを活用しながら目標管理をすることで、課題を自分で発見し、自分で要因を探し、どうしたらそれを解決できるか考える力をつけています。

例えば問題解決思考の場合、「転倒する人が多いのでどうにかしたい」というように、すでに表面化した問題として対応します。

プロジェクト思考法で転倒する患者さんのことを考えるとすると「その方は、どうありたいと願っているのか?」と問い、あるべき姿を共有することからスタートします。そこから描いたビジョンに向かって作戦を立て計画的に実行することができます。

当院ではこうした思考プロセスを、入職1年目の人から訓練していきます。

ポートフォリオを新人教育にも活用されているのですね。

岡田:はい、もしかすると1年、2年目の看護師のほうが、頭がプロジェクト思考で動いているかもしれないというくらい新人教育の中に入れています。

プロジェクト思考は、「何が問題なのか」ではなく「どうありたいか」から始めるので、とてもポジティブなのです。

主体性を重視していらっしゃるということでしょうか。

岡田:そうですね、やはり自分で課題を発見しない限り、主体性とは程遠いのです。

「なんで本当にこれが必要なのか」「何のためにやるのか」という本質の戻って考える思考力をしっかり身に着けておけば、どこへ行っても主体的な活動ができます。

人から「これやりなさい」と言われてからやるのと、自分からやろうと思ってやるのとでは、意識も全然違います。

大学病院は人を育てるのがミッションですから、しっかりとした基礎教育をして「順天堂練馬病院で働いた人なら信頼できるね」と言われる看護師を育てたいと思っています。

新人看護師は毎年どのくらい入職されるのでしょうか。

岡田:50人程です。

退職率は概ね東京都平均と同様ですが、当院は3年後に90床増床する予定ですので、そのときを目指して看護師の増員を考えています。

今は看護師の定着率を上げるために超過勤務の低減や休みの取り方の改革に取り組んでいます。

看護体制の変更で働く人たちの意識が変わり、超過勤務時間がずいぶん減ってきました。交互に助け合って2週間の長期休暇が取れた方もいますし、体調が悪ければすぐ休んでもらったり、子どもさんに何かあれば休みがとれるよう譲り合ったりすることで、出産しても働き続ける人は増えてきました。

院内認定制度でモチベーションアップ

看護師のキャリアアップのための取り組みについて教えてください。

岡田:当院では平成23年に「院内認定看護師制度」を開講しました。

これは、認定看護師と専門看護師が自分たちの専門領域の実践的コースを立ち上げ、半年かけて教育するものです。

褥瘡ケア、感染看護、クリティカルケアなど全部で7コース開講されていて、回を重ねる毎に参加者も増えています。

今年度は約400人の看護師のうち85人が受講し、練馬区の他の施設からも5~6人参加しています。

院内認定を取ると、病院長名で認定証と認定シールが授与されます。

認定シールはネームカードに貼り、みんなにわかるようにしています。

院内認定制度は、何年目の看護師さんから受講できるのでしょうか。

岡田:新任者以外は、全員エントリーができます。

ですから、2年目の看護師と師長が机を並べて同じプログラムを学んでいることもあります。自主参加ですので、皆自分の時間を使って学習を続けています。

看護の技術・知識はアップトゥデイトです。

日々、新しい情報を更新する必要があります。

だから現場のスタッフだけでなく、師長も受講するチャンスを作っているのです。

受講した看護師たちからの評判はいかがでしょうか。

岡田:実践に役立つ、再現性が高い、やりきった達成感がある、という評価を聞きます。

3つ目4つ目を取りたいというリピーターが多いことから、モチベーションにもつながっていると思います。

先日褥瘡ケアコース修了者30名の事例発表会を行いましたが、レポートの質とプレゼンテーションスキルが上がってきたことが実感できて、とてもうれしかったです。

これは本当に、当院自慢の教育システムです。

看護補助者の役割を考える

こちらの病院での看護補助者の方は何人位いらっしゃるのでしょうか。

岡田:看護補助者は今40人程採用しています。

中には週2日勤務の方、15時までの方、18時までの方などいろいろいらっしゃいますが、夜勤はやっていません。

年齢的には、30~40歳代、それ以上の方もいます。

こちらの病院での看護補助者のお仕事について教えていただけますか。

岡田:各病棟にだいたい5~6人ずつ、外来にも配置しています。

患者搬送や環境整備が業務の中心ですが、看護師と一緒にケアに入ることもありますし、外来の看護補助者は、医師の診療介助の一部を担っていただいています。

長く勤めているベテランの看護補助者ともなれば、患者さんのことも本当によく分かってリーダーシップを発揮してくれています。

看護補助者の方の役割は大きいということでしょうか。

岡田:やはりすごく大事で、師長が立てた部署目標にも「看護補助者との協働を促進する」というような項目が増えてきました。

看護師の業務軽減のために看護補助の方を増やしましたので、皆さんに活躍してもらえるように、看護師が担ってきた業務を見直し、話し合いながら依頼業務を増やしていくようにしています。

ドクターXではないですが、看護師免許がなければできない仕事をしっかり引き受けていくために、免許がなくてもできる仕事に関しては手放す勇気を持たないといけないと思います。

ただ、業務の切り分けることによって、経験知が少ない看護師が準備から後片付けまでの一連のプロセスを体験できなくなり、業務のつながりが分からなくなってしまうのではないか、と心配する声もあります。

例えば、どのような事でしょうか。

岡田:例えば、清拭の準備と後片付けを看護補助者に依頼している病棟があります。

看護師は患者さんのところに行って清拭をすることに集中できて、それはそれでとても業務がしやすくなったし、残業も少なくなったという評価はあります。

準備も後片付けも標準化されていますし、看護師でなくてもできることですが、準備から後始末のすべてが一連の業務です。

ですから、「準備はどこで覚えるのか」「片付けはどこで覚えるのか」ということが気になってしまいます。

一連の業務を経験し分かった上で、「この業務はこの人に渡せる」とか「この仕事は自分がやる」とか判断する必要がある、という考えもあります。

こうした問いに対する答えはまだありません。

看護補助者の方の教育は、看護部でされているのでしょうか。

岡田:主に総務課長が担当し、入職時のオリエンテーションをします。

その後は教育担当者と一緒に集合研修を行っています。

あとは、病棟の特徴によってニードや優先順位が違いますので、現場の師長が必要に応じて教育しています。

例えば、脳神経・内科・外科系と、整形外科の患者さんの特徴や病棟のスケジュールは全く違います。

同じ業務でもどれを優先するか何に注意するかを理解してもらうことが大切で、現場での毎日のコミュニケーションが相当に必要になります。

お話は変わりますが、仕事以外で、気分転換としておられることや趣味はございますか。

岡田:そうですね、友人と一緒にご飯を食べたり、ちょっと宴会をやったり、そういうのはすごく楽しいですし、本読むのも勿論好きです。

好きな音楽は、船村徹先生の演歌や阿久悠先生の作詞した唄、演歌がいいと思うようになってからは、美空ひばりさんや吉幾三さんの曲なども聞きます。

岡田看護部長から新人看護師へメッセージ

では最後に、新人看護師に向けて一言メッセージをお願いします。

岡田:新人看護師の皆さん、頑張っていますか?

「自ら考え判断し行動する」そういった看護師を目指して、ぜひ頑張ってください。

一生の仕事です。

めげたときにも、なんとか踏ん張ってみんなで一緒にやっていきましょう!

シンカナース編集部インタビュー後記

決めたことを最後までやり抜く!

岡田看護部長を体現するお言葉だと感じました。

迷いながら、止まって動けなくなるのではなく、明確にキャリアが確定していなくても、実践や人との出会いを通じて納得のいく未来を自ら見つけ出していく。

部長自らが、看護師として「このままでいいのか?」と迷ったり、辛い時期を乗り越えられたからこそ、管理職になられた今、スタッフの悩みや痛みも受容しつつ、次の未来へ牽引していただけるのだと実感しました。

看護補助者に対しての見解も、未来志向でいらっしゃり看護師と看護補助者との協働に対しても

「(看護師は)免許がなくてもできる仕事に関しては手放す勇気を持たないといけないと思います。」

とおっしゃられた言葉はとても衝撃と同時に納得いたしました。

岡田看護部長、看護の未来を明るく照らすお話をいただき、誠にありがとうございました。

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