「特定行為研修」開始から1年
2015年10月に「特定行為に係る看護師の研修制度」いわゆる「特定行為研修」がスタートして1年。研修を終えて現場でその力を発揮している看護師「特定看護師」も出てきました。進み始めたこの制度について、改めて考えてみたいと思います。
この制度が誕生する背景には2025年問題が大きく関係しています。2025年は3人に1人が後期高齢者になるという、日本にとって非常に大きな転換期です。それに向けて国は病院から在宅へと医療制度の大転換を決断しました。そこでは医療の質と量その両方の機能を高めていくことが求められており、これからの在宅医療や急性期医療を支えていく看護師に、一定の行為を特定行為として取り決め、看護師の判断で実施できる裁量を与えるべく創設されました。
特定行為研修を始めるにあたっては多くの時間をかけて議論がなされ、また保助看法の改正も行われました。特定行為は「診療の補助であつて、看護師が手順書により行う場合には、実践的な理解力、思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされるものとして厚生労働省令で定めるもの」と保助看法で定義されています。
21区分38行為に分類された特定行為は、看護師の業務である「診療の補助」として明確化されました。今までグレーゾーンとされてきた行為がクリアになったことは歓迎すべきでしょう。共通科目研修315時間、区分別科目研修が15〜72時間、これらの研修を終了することで医師の指示のもと手順書に沿って特定行為を実施できるようになります。誤解してはいけないのは、彼らは特定行為だけをする看護師ではなく、通常業務を行いながらその上に特定行為が実施できる裁量があるというものです。
2025年までに10万人の養成は現実的?!
厚生労働省は2025年までに10万人の特定看護師の育成を目指しています。現在までに認定看護師が約17000人、専門看護師が約1700人という現状を考えると、あと10年以内に10万人を養成することは非常に困難な道と考えられます。しかし、需要は確実にあることがわかっているため、今後研修を希望する看護師が増加していくことも予想できます。
彼らの活躍の場として多く期待されているのは、在宅分野です。訪問看護ステーション、デイサービス、老人ホームなど、様々な施設があり、その多くは医師が常駐していないことが特徴です。そこに特定看護師がいることで、彼らの判断によって様々な場面に対応することができるでしょう。
具体的には「気管カニューレの交換」、「胃ろうカテーテル若しくは腸ろうカテーテル又は胃ろうボタンの交換」、「末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入」、「褥瘡又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去」、「脱水症状に対する輸液による補正」、「感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与」、「インスリンの投与量の調整」、「抗不安薬の臨時の投与」などのニーズがあると厚生労働省は想定しています。
キャリアの新たな選択肢
看護師のキャリアアップといえばこれまで認定看護師、専門看護師という選択肢がメジャーでした。今回「特定行為に係る看護師の研修制度」が導入されたことで、新たに「この研修を受ける」という選択肢が加わりました。認定看護師等とは異なり「資格」ではないため、院内・施設内でのポジション・待遇等が具体的にどのように変化するかはまだクリアになっていない点も多く、「キャリアアップ」としての土台作りもこれからでしょう。全国の病院・施設での導入が期待されますが、他職種や患者さん・家族への理解や、いかに現場に定着させていくかといった課題もあります。また、ギリギリの人員の中で、働きながらいかにして研修を受けるか、という問題もすでに出てきています。これらの解決に向け、さらなる議論が必要となることは間違いありません。
目の前の患者さんの変化に看護師がタイムリーに介入できることになったことで現場がどう変化していくのか、看護がどう変わっていくのか、引き続き注目すべきテーマとなりそうです。