ベトナムで枯葉剤の影響により結合双生児として産まれた弟グエン・ドク(Nguyễn Đức)さんへ取材させて頂きました。
日本では1980年代にマスコミによって報道された「ベトちゃん、ドクちゃん」のドクちゃんです。
現在、36歳。
広島国際大学客員教授として「福祉を考えるうえで欠かせない平和や命の尊さ」をテーマに講演されるそうです。
講演の内容から医療に対する期待や私生活に迫ってみました。
福祉を考えるうえで欠かせない平和や命の尊さ
今年(2017年)4月に広島国際大学の客員教授になられたとお伺いしましたが、どのようなことを伝えたいと考えていますか。
ドクさん:
広島国際大学の客員教授にして頂いたことは大変光栄なことだと考えています。
大学の学長を始め諸先生の方々に大変感謝しております。
私は、広島国際大学で、指導や教育をしようとは思っていません。
私が体験したことや、感じていることを学生の皆さんと共有したいと考えています。
「福祉を考えるうえで欠かせない平和や命の尊さ」をテーマで講義をされるとお聞きしていますが、その内容を少しお伺いさせて頂けないでしょうか。
ドクさん:
世界中で戦争が起きています。
フランス植民地時代、特にベトナム戦争の時代の影響が沢山残っています。
母親がいないなどの間接的に影響を受けています。
次の世代に平和の大切さを伝えて行きたいという思いがあります。
平和だけが全ての人々が幸せになることのできる唯一の方法なのです。
これのメッセージを後世へ継承して行きたいと考えています。
兄弟について
私は様々な臓器を体内で共有するベトという兄と一緒に生まれました。
私達は特別な体ではありましたが、私が強く願っていたのは「生きたい」ということでした。
ただ、それが普通の人より難しいということは気付いていましたが、私はこれに挑戦しなければならないことを子供の頃から知っていました。
残念なことに、兄は身体の分離手術を行ってから昏睡状態が続き、2007年に亡くなってしまいました。
それは耐え難い痛みのある悲しみを伴いましたが、それでも私は「生きよう」と思っています。
枯葉剤の人体への影響
私は、生まれて直ぐに枯葉剤によって身体に影響を受けた子供を収容する施設に入りました。
そこで、私は私達兄弟と同じように枯葉剤の影響を受けた子供たちをみることになりました。
施設の子供たちは、直接枯葉剤を浴びたのではなく、枯葉剤を浴びた両親から生まれた子供たちです。
子供たちの症状は様々でした。
私達兄弟と同じように身体の臓器を共有している双子や、頭部を共有している双子、目のない子供など、様々なタイプの子供たちがいました。
戦争で枯葉剤を散布されると、爆弾と違って直ぐには人は死にません。
しかし、私達のように、枯葉剤を浴びた両親から生まれた次のジェネレーションが身体的影響を受けてしまいます。
これは、とても悲惨な現実です。
障害を持って生まれた私達が、ベトナム社会で生きていくこと
私は、政府、医療スタッフ、ボランティアなど様々な人の援助を受けることによって、障害のない人たちと同じ生活スタイルを行うことになりました。
それはとても嬉しいことでもありますが、一方で障害があるので、バイクを運転することひとつにしても、自分にあったバイクを自分で作るしかありません。
生活をする上で一般の人とは違う不便さを、自ら解決していく必要がありました。
これは、施設で一緒に過ごした他の子供達も同様でした。
中には若くして亡くなってしまう者も少なくありませんでしたが、サポートを受けて一般社会に入っていけたとしても、様々な困難が我々には待ち受けていました。
この身体で、仕事は何をすればいいのか?どこに住めばいいのか?障害者用の器具や用具はどこで買えばいいのか?ベトナムでは障害者のための住居、器具販売店なども少ないため、どこで器具を準備すればいいのかなども深刻な悩みの一つでした。
平和の大切さ
私は直接的に戦争を目にしたわけではありません。
しかし、私の身体は戦争によってつくられました。
私は考えることがあります。
「もし、私が健常者だったら?もし、戦争がなければ?」私は私自身を見ることで、常に平和の大切さを感じ、平和を願うのです。
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