前編に続き岡田先生に、
それぞれの部署の最上級者や管理者は不参加(例えば看護師長は参加しない)の意見交換会を開催するなど、
現場の意見を生かすための独自の工夫についてお聞きしました。
現場からの提案は即実行
中:ボトムアップの提案をとり入れるための意見交換会とは、どのように行うのでしょうか。
少し具体的にお聞かせください。
岡田:例えば看護師の分野でしたら、主任クラスが参加して病院首脳陣の前で自由に提案していただきます。
師長は参加しません。
師長が同席していると、言いたいことを言いづらいこともあると思いますので。
また、現場で実際に手を動かしている人しか気がついていないこと、
つまり管理者の目ではわからない部分もあり、
かといってあまり経験が浅いと問題を的確に把握できないだろうということで、
ある程度責任があり経験的な気付きも多いであろう主任クラスを対象としています。
このような会を毎月のよう開催しています。
ここで大事なことは、提案されたことは必ず実行することです。
しかも「来年度にやりましょう」でなく、遅くても2カ月以内に実行されるということです。
その評価は3〜6か月後に行い、提案を実行し効果が期待通りでなければ調整していきます。
一番良くないのは、何もしないことです。
このような意見交換会を看護師だけでなく、医師以外の全職種で行っています。
中:病院首脳陣の前では緊張してしっかり話せないスタッフが多いのではないでしょうか。
岡田:いえ、そうではなく、今の若い人はプレゼンの手法を勉強されていて、
3つ4つのテーマを1時間ほどにまとめた良い発表が多いです。
スピード感のある改革
中:少し先生ご自身のことをお伺いしたいのですが、病院長になられた経緯をお聞かせいただけますか。
岡田:当院に赴任してからはいろいろな役回りを担当しました。
最初は医療材料を扱う部門の長を任されて、その後は病床管理、
いわゆるベッドコントロールを8年ほどしていました。
当時、当院の病床稼働率は80%をわずかに超える程度でしたが、徐々に上昇し
今では97 %を目標にできるまでになりました。
途中からは総合医療相談部という医療連携や退院支援、訪問看護などを一手に担う部門の長を務め、
他にも医療安全部長も務めました。
それらの経験から院長に指名されたのだと思います。
中:病院の根幹的な部分でさまざまな経験され、実績を上げられたのですね。
病院長になられ、ご自身が思い描くような理想に近づいているとお考えでしょうか。
岡田:これまで比較的スピード上げてやってきたつもりですが、周りのスタッフに少しずつ理解され、
ペース落とさずに向かうべき方向に向かっていると思います。
看護師という職業の誇り
中:看護師についてもう少しお尋ねします。
先生が今、看護師に何か期待されることはございますか。
岡田:看護師という職業は、どの診療科、どの職場で働こうが、人のために役立つ職業です。
ですから、まず「自分は良い職業についている」という自信を持っていただきたいです。
しかも看護師は国家資格です。
数少ない国家が認める資格の一分野を担っているのですから、安易に辞めないで欲しいと願います。
「当院を辞めるな」ということではなく「看護師であることを辞めないで欲しい」ということです。
自分のスキルを生かした仕事をずっと続けていただきたいと思います。
中:貴院では看護師の就業を支援する仕組みはございますか。
岡田:出産や子育てなどで一時離職後の復職を支援するキャッチアッププログラムがあります。
もう一つは病院全体に関係することで、現在、土曜日は第3週が休診、
それ以外は午前中のみ診療しています。
この午前中のみの診療というのが労働する側にとっては非効率ですので、
むしろ土曜日も平日と同様に診療し、その分、
スタッフは丸1日休める日を増やすようにシフトを調整した方が、労働環境は改善すると思うのです。
早ければ来春4月から実行しようと思っています。
中:そうですか。
本当に先生は決められたら即実行されるのですね。
岡田:決めたことは必ずしていきます。
できそうなことしか言わないということもありますが。
趣味は料理と皿洗い
中:ご趣味はございますか。
岡田:若い頃は登山をしていました。
しかし今は時間がありません。
それに太ってしまって、膝も悪くしてしまいましたので、登山は無理です。
目下、妻の指導のもと一生懸命料理を作る、これが趣味です。
それに皿洗いと洗濯も大好きです。
中:皿洗いと洗濯ですか。
岡田:汚れていたものがどんどん綺麗になっていくのが好きなのです。
皿洗いも洗浄器を使わずに手で洗うのが好きです。
どういう順番で洗うと一番効率よく汚れが落ち、
最も乾きやすくするにはどのように並べると良いのかを考えながら洗います。
中:外科系の先生らしいなと思います。
岡田:そうですね。
綺麗に仕上げるには、お皿の大きさや形が重要です。
いま住んでいる埼玉は海なし県ですが、宅配便で日本中の漁港から食材を直接買うことができますので、
休日は妻の指導を受けながら、朝から晩まで料理を作っています。
中:一日中ですか。
岡田:一日中、作って食べて、最後に洗う。
それが息抜きです。
もう一つ、趣味とは言えないかもしれませんが、本当は実験が大好きです。
もともとは男性不妊症の研究者ですから精子や精巣を扱った研究を今でも続けています。
齢をとればとるほど面白いことがありますね。
いくら寿命があっても足りません。
自信を持てるスキルを身につける
中:年齢を重ねられて面白いと思われることとは、例えばどのようなことでしょうか。
岡田:若い人たちと過ごす時間ですね。
エネルギーをいただいて、その代わりに少し知っていることを教えてあげるということで、
頭を柔らかく保てるかなと期待しています。
中:新人のドクターとの会話ということですね。
岡田:当院は獨協医科大学の附属ですが、医師の過半数は他大学の出身者です。
若い医師には出身大学にとどまらずに日本中、できれば世界中を回ってほしいですね。
何か一つ自信のあるスキルがあれば、どんな環境でも働いていけると思いますし、
相手のスキルを素直に認めることができると思います。
同じことは看護師にも当てはまるのではないでしょうか。
国家試験の免許一枚だけではなく、その上にプラスしたものをなるべく持つようにしていただきたいです。
中:ありがとうございます。
最後に改めて看護師へのメッセージをお願いします。
岡田:獨協医科大学埼玉医療センターの岡田です。
当院は埼玉の東部に位置し、病床数が923床もある大きな病院です。
特に高度急性期を中心とした、しかも外科系を中心とした病院でございます。
特徴はいろいろありますが、一つは大学病院らしくなく、往診までしていることです。
それから看護師さんに直接関係することとしては、キャリアアップに役立つように、
キャッチアップのプログラムを充実させております。
「ずっと当院に勤めなさい」ということではなく、当院で身につけたスキルを使って、
次の病院でキャリアアップをしていかれるのも良いでしょう。
そのためには、ある期間、当院のためにお力を尽くしていただいて、
そのかわり我々も、一生懸命やっていただいた人たちには
「ここにいて良かったな」と思われるような機会を提供できたらと思っています。
我々の病院で一緒に働きませんか。
インタビュー後記
王道でありながら、医療業界では革新的な取り組みを行なっていらっしゃる岡田先生。
現場からの意見を吸い上げ、スピード感を持ち迅速に対応する。
ベッド稼働率も目標を共有し、スタッフ一丸となってやり抜く。
こうした一つ一つが経営の安定化とスタッフ満足から患者満足に繋がるのだと実感できるお話でした。
また、岡田先生には、病院内の様々な部署をご案内いただきながら、いかに医療を、病院を考えていらっしゃるかもお伺いできました。