前編に続き、慢性期医療に徹して患者さんとご家族を支えていく鶴巻温泉病院の取り組み、
鈴木先生のご経歴、看護師へのアドバイスなどをお聞かせいただきました。
リハビリ医療の充実
中:回復期リハビリ病棟のスタッフはどのくらいいらっしゃるのでしょうか。
鈴木:病床が206床で、リハ療法士も200人近くいます。
現在、FIMというスコアでADL(日常生活動作)を評価していますが、
当院の回復期リハ病棟はFIMがどんどん高くなる病棟です。
急性期病院からもっと早く転院していただけるようになれば、もっと早く良くなると思います。
また当院では、地域包括ケア病棟で維持期のリハビリテーションを提供したり、
在宅患者さんに訪問リハも行っています。
さらに、診療報酬上は算定できない緩和ケアにおけるリハビリを行っています。
緩和ケア病棟の患者さんは限られた予後ではありますが、
そうであってもリハビリで何かしらの満足感を得ていただければと期待しています。
中:病院全体でリハビリに力を入れているのですね。
鈴木:ソーシャルワーカーも15人いて、患者さんやご家族からさまざまな相談に応じています。
当院の特徴をもう一つ挙げますと「鶴巻温泉病院」ですから温泉設備があり、
ご家族が患者さんを温泉に入れて差し上げられることです。
患者さんにもご家族にも、たいへん喜んでいただけます。
遺族の方の癒し
中:患者さんごとに、リハビリ、緩和ケア、看取りとさまざまなステージの違いがありますと、
スタッフの共通認識のもとでのチーム医療が欠かせませんね。
鈴木:チーム医療は、患者さん・家族も参加し医療スタッフと一緒になって目標に向かうものです。
では何を目標にするか。
急性期病院なら病気を治すことが目標です。
しかし当院は慢性期病院ですから、患者さんのQOLを高めて維持することを目標にしています。
これに関連し、看護師の教育にはかなり力を入れています。
例えば今、看護師特定行為の研修修了者が4名いますし、さらに研修中の看護師がいます。
増えれば増えるほど、いろいろなことを任せられるようになるので、たいへん期待しています。
また、病院は明るくなければいけませんから、接遇の指導にも力を入れています。
亡くなられた方のご家族から感謝の言葉に溢れる便りをしばしばいただきます。
ご遺族にとって、患者さんが良い環境で亡くなり「最後に孝行できた」という気になるのですね。
大切な家族を失った悲しみが少しやわらぐかもしれません。
そのような環境を提供できる病院であり続けるとことが、当院の目標です。
中:残された家族の方の心も癒して差し上げられる病院ということですね。
ところで、貴院のホームページなどに可愛らしいイラストが掲載されていますが、
あれはどなたが考案されたのですか。
鈴木:当院の作業療法士が描きました。
「これを病院のマスコットにしよう」という話になり、名前は「鶴のまきちゃん」と決まりました。
鶴のまきちゃん体操もでき、DVD化されていますし、いろいろなグッズも次々と作られています。
また、小田急線の車両には、必ずどこかのドアに1個だけシールが貼ってあります。
「夢があるから、がんばれる」といったいろいろなパターンのメッセージが付いています。
小田急に乗る機会があれば、ぜひ見つけてください。
中:楽しみにします。
ここで少し先生ご自身のことをお聞かせください。
なぜ医師になろうと思われたのでしょうか。
鈴木:それはやはり医師の家系だったことが大きいと思います。
私で3代目です。
もう一つは、当時、学園紛争が高校にも波及してきて、受験勉強などほとんどできませんでしたから
「どうせなら、落ちてもいいから少し難しいところを受けてみよう」と医学部を受けると、幸い受かったというのが理由です。
リーダッシップの発露
中:高校にも学園紛争があったとは知りませんでした。
鈴木:50年も前の話です。
当時、私は高校の生徒会長を務めていたため、生徒と学校の間の中立的な立場になって、ことに当たっていました。
中:そうしますと、とてもお若い頃から、リーダーシップを発揮されるような存在だったのでしょうか。
鈴木:なるほど。
そう言われるとそうかもしれません。
特に意図していたわけではありませんが、
確かに医師になってからもリスクマネージメントをする立場になることが多いですね。
変化を進化に、進化を笑顔に
中:先生が慢性期医療に力を入れられるようになった背景をお聞かせください。
鈴木:私のベースは脳外科医です。
大学病院で一医師として勤務していた頃は手術に熱中していましたが、
やはり脳卒中後のリハビリを充実させる必要性を感じ、学んできました。
中:院長になられた時、何か目標などを立てたりなさいましたか。
鈴木:2009年の9月に当院に着任し院長になりました。
そのときから私のモットーは、「変化を進化に、進化を笑顔に」です。
毎年のように医療制度が変わるので、それに合わせて病棟も変えていかなければなりません。
変化をしないと進化せず、結果として経営も悪くなってしまいます。
ですからスタッフにはこの考え方に付いてきてもらわなければいけません。
それをわかってもらうことが病院運営という点では一番大事です。
院長通信
中:そういったお考えをスタッフの方に伝えたり、スタッフのモチベーションを高める工夫はされていますか。
鈴木:院長就任以来「院長通信」というブログを毎月更新しています。
スタッフが何か特別なアイデアを実行したりすると、写真付きで紹介することも続けています。
あとはやはり、患者さんに喜んでもらうことがモチベーションには一番だと思います。
新入職員が入ってきますと、いつも
「あなた方の職業はとても良い職業で、心からありがとうと言っていただける仕事です。
そうすれば辛いことも、きっとやりがいになります」と話しています。
医療の分業化とチーム医療
中:先ほど看護師特定行為のお話がございましたが、ナースプラクティショナーについてはいかがでしょう。
何かお考えはございますか。
鈴木:看護師に限らず、
例えば薬剤師も医師に対して積極的に処方に関する意見を言えるようにすべきだと思っています。
我々医者は学生時代、わずかしか薬理学を学ばず、
現在6年間薬学を学んでいる薬剤師の比較にもなりませんから。
同じことは管理栄養士についても言えます。
栄養学をほとんど習っていない医者が栄養の処方箋を書くのはおかしなことです。
医療の分業化はどんどん進んでほしいと思っています。
中:そのような考え方が、先ほどのチーム医療の取り組みの基盤にあるのですね。
それでは最後に、看護師へのメッセージをお願いします。
鈴木:当院は、多機能の慢性期の病院です。
患者さんと長く一緒にいて寄り添うことができます。
看護師さんは250人ほどで、認定看護師が10人ほど在籍し、専門看護師も働いています。
また最近は特定行為の研修も力を入れております。
皆さんが、より能力を発揮して頑張っていけるように応援しています。
ですから、ぜひ一緒に働いてください。
よろしくお願いします。
インタビュー後記
鶴巻温泉病院という名前の通り、病院には温泉があり、患者さんの治療にも活かされていらっしゃいます。
鈴木先生の柔軟かつモダンな発想で、病院の待合的なスペースもカフェのようになっていたり
患者さんや家族がくつろぎながら治療が出来る空間作りをとても大切にしていらっしゃいました。
経営戦略や、病院の未来に向けた取り組みなども詳しくご説明いただき、鈴木先生が自ら情報配信をされ
スタッフ、患者さんやその家族、周辺住民と共に病院を創造していかれていることがよく分かるインタビューでした。