今回は板橋中央総合病院の看護部長、竹内由美様にインタビューをさせて頂きました。
竹内看護部長の手腕と魅力に迫ります。
母の通院
看護師になろうと思われた動機を教えてください。
竹内:私が小学生低学年の頃、母が病気がちで週に一回は病院に通っていました。
母の通院のたびについて行く私は、
いつも待合室や診察室で母に優しく接してくださる看護師の姿を目にしていました。
それが「私も看護師になるぞ」と思った端緒です。
成長するに従い他の職業に憧れたこともありましたが
「女性が一生できる仕事は、やっぱり看護師」という父の言葉に背中を押され、
最初に抱いた夢を目標に定めました。
今、看護師になって35年目ですが、人の生死という大事な場面に関わる
この職業を選んで本当によかったと感謝しています。
患者さんとの距離感
素敵なお話ですね。
看護学生時代のエピソードをお聞かせください。
竹内:腎不全で腹膜透析をされている患者さんを受け持ったことが
印象に残っています。
「この大変な管理をこの先ずっとされて生きていかれるんだなぁ」と
その方の生活に思いを巡らせるとともに、
看護には短時間だけ関わる看護もあれば
長期間患者さんと過ごす看護もあることを実感しました。
経過が長期に及ぶ場合、
いつも医療者と一緒ではなく
時には一人になりたいとお考えになる患者さんもいらっしゃいます。
「患者さんとの距離間ってとても大事だな」と、
実習生なりに気付かされた場面でした。
卒業後はどのようなご経験をなさいましたか。
竹内:まず、ある病院の内科病棟に8年勤務しました。
当時は看護師の教育システムが整っておらず、
先輩の背中を見て真似を覚えろという時代でした。
今は全く異なります。
さまざまな研修制度が整い大変恵まれた環境だと思います。
システムとしての看護教育の必要性
貴院でも看護師研修に熱を入れていらっしゃるご様子です。
看護師の教育システムが充実してきた背景はどのようなことだとお考えですか。
竹内:かつて「看護婦」と呼ばれていた頃、
看護婦は医師のお手伝いさん的な位置づけで、
医者の指示通りに働いていれば良いという雰囲気だったように思います。
看護の視点で自分の意見を言うということはあまりありませんでした。
それが「看護師」という呼称が使われるようになる頃から、
4年制看護大学が増えてきたことも関係して、
看護の専門性に関する理解が広がってきたのだと思います。
私も当時、看護教育の重要性を強く感じ始めていました。
疾患構造が多様化し看護に必要な知識や技術も増えていましたので、
手厚い研修は必然ですから。
医師には初期研修や後期研修というしっかりとしたプログラムがあり、
卒後5年ほどすれば一人前の医者に育っていきます。
看護師も医師と同じ〝師〟がつく職業ですから、
同じようにそのようなしっかりと教育システムが必要だと思いました。
内科病棟に勤務していたときからそのように考えていたのでしょうか。
竹内:内科病棟の頃は若かったので、そこまで考えていません。
自分の行った看護が患者さんにどのような影響を及ぼしたのか、その反応を見たり、
患者さんの「ありがとう」という言葉に喜びを感じたりしていました。
教育のことを考えるようになったのは、やはり管理者になってからです。
患者さんに直接かかわる機会が減り、
スタッフを介して自分の看護を実現しなくてはいけない立場になって
「良い看護師をしっかり教育しなくては」と思いました。
ふたば研修
役職に就かれたのはいつ頃でしたか。
竹内:看護部長になって今年で12年目です。
最初に看護部長を務めたのは当院と同一法人内の老健施設でした。
そこでは介護スタッフから良い刺激を多分に受けました。
患者さんの機能低下を防ぐために何かできることはないかと常に考え、
非常に豊かな発想でレクリエーションを考案されている介護スタッフの姿を
目のあたりにして「看護もしっかり教育しスタッフを育てなければ」
との思いを新たにしました。
その後、当院より小規模のやはり同一法人内の総合病院の看護部長に異動しました。
そこでは看護師集めに苦労しました。
募集しても応募がないのです。
対策を検討した結果、看護師を集めるには教育体制の整備が必要との結論に達し、
新たな新人研修制度を立ち上げたのです。
名称は「ふたば研修」。
若い新人看護師が安心感を持ってスタートできるように、
親近感のわく可愛らしいネーミングにしました。
狙いは大成功で「ふたば研修を受けたい」という看護師が急増しました。
当院の看護部長に就任したのはその後のことです。
スタッフ教育に力を入れていることは何ですか。
竹内:以前の病院に比べて診療科が多く、病床数は3倍、職員・看護師の数も3倍です。
登場人物の多い小説は話が複雑なのと同様に、
物事を進めたり指示を伝達したりするのに以前の職場よりも時間がかかっています。
しかし当院は急性期病院ですからスピード感が重要です。
そこで今、意思伝達や改善のアクションを少しでも速く行うよう、
管理者の看護師長たちを通じて教育しているところです。
後編へ続く