今回はがん専門病院として最も規模の大きい、がん研究会有明病院の病院長、山口俊晴先生にお話しをお伺いしました。
国内最大のがん専門病院
病院の特徴を教えてください。
山口:国内で最も規模の大きいがん専門病院です。
もう一つの特徴は、がん専門病院として国内で最も古くからある点です。
100年以上前の明治41年に開設されました。
また臨床のみでなく研究も重視するという、大変アクティブな歴史のある病院です。
医師になろうと思われた動機を教えてください。
山口:結核を患ったことのある兄が、医師を目指して医学部に進学しました。
当時、私自身は医師になろうという夢を抱いていませんでした。
高校の頃には「パイロットになりたい」と考えていたのです。
しかしパイロットになるためには胸囲が不足していることがわかりました。
結局、理科が好きだったこともあり「兄と一緒の医学部に行こう」と決めました。
ご専門はどのように決められたのでしょうか。
山口:医学部を志望した当初は精神科医を目指していました。
しかし医学生として授業や実習を受けていく中で「自分の世代には、がんが医学のメインテーマになるのではないか」と考え、外科を選びました。
「メスでがんを全て治す」という気合い
がん研にはどのような経緯で来られたのでしょうか。
山口:医学部卒業後は京都府医大や秋田大で胃がん領域を長年手がけていました。
しかし大学は臨床の他にも研究や教育があるため、手術ばかりを続けているわけにはいきません。
そのような時にがん研にいらした先生からお誘いを受けたのです。
50歳を過ぎたその時まで「思う存分、手術をしてきた」との実感をもつことがなかった私は
「日本で一番症例の多いがん研に行けば、外科医として躍進できるのではないか」と期待し、
お誘いを受けることを決断しました。
とにかく研究よりも臨床をやりたいという思いが強かったと記憶しています。
当時の病院の雰囲気をお聞かせください。
山口:外科医たちの「メスでがんを全て治す」という気合いがあふれていました。
その一方で腹腔鏡を用いた低侵襲手術に対してはまだ大変厳しい姿勢もありました。
当時は機器も技術もでしたから仕方ありません。
しかしちょうど私が部長に就任した頃から機器の改良や外科医の技術度が進むに従い、
腹腔鏡手術の適応が拡大していきました。
外科医にとって素晴らしい環境
現在の病院はいかがでしようか。
山口:日本中から多数の患者さんが集まる大変優秀な施設です。
手術室の設備が素晴らしく、麻酔科医のクオリティーや看護師のレベルが高いことも特色です。
当院が目指しているのはがんの制圧です。
そのためには手術が一番大事であるというスタッフの共通認識があります。
その目的のためにみんな頑張ろうという精神が溢れています。
外科医にとっては本当に素晴らしい環境です。
実際、職員満足度調査の結果、外科医の満足度は90%以上に上りました。
さらに、当院の外科医は臨床ばかりでなく研究も並行させ論文を書き、業績を積み重ねています。
本当に頭が下がります。
当院のように、一人の外科医が週に何件もの手術をコンスタントに行える施設はあまりありません。
当院で外科医として数年経験を積めば、どこに行っても通用するはずです。
ですから実は、私は外科のスタッフに「4~5年働いたら他に異動し活躍して欲しい」と伝えるのです。
もちろん本心は当院に長く勤務して欲しいのです。
しかし、ここで得た技術を広めてほしいし、さらに多くの後進を育てる機会を確保せねばなりません。
手術室の体制を教えてください。
当地に移転した時点では手術室は14室でしたが現在は20室へ拡充しています。
それでもまだ足りません。
実際、院内に「経営改革会議」という組織で毎週、諸々のテーマを検討しているのですが、
その主要テーマの一つが「手術室の稼働」です。
麻酔科医等スタッフの割当などを工夫し、現在、稼働率95~98%に到達しています。
「日本一のがん研」の看護師
看護師の評判はいかがですか。
山口:看護師もとても評価が高いです。
「がん研は、優しく威張らない看護師さんが多い」といった評判をよく耳にします。
また非常によく勉強していて、医師からも信頼されています。
他施設から来られた外科医が、エピソードを語ってくれました。
手術中に自分が必要としている器械を看護師が次々と手渡してくれたそうです。
驚いていると、その看護師に「先生のオペのDVDを拝見して勉強しました」と言われ、
さらに驚いたとのことです。
当院では医師ばかりでなく、看護師も「がん研は日本一だ」というプライドを皆さんお持ちなのだと思います。
当院は非常に多忙ですので、医師と看護師が連携しなければ稼働しません。
医師が動きやすいように看護師が動くというカルチャーは素晴らしいです。
一方で医師は、看護師が常にカバーしてくれていることを忘れてはいけませんね。
後編に続く