No.221 EAファーマ株式会社 松江裕二 社長 前編:消化器疾患のスペシャリティ・ファーマ

インタビュー

2016年設立というまだ新しい新薬メーカー、EAファーマ株式会社。

年々厳しさを増す医薬品業界において、どのような展開をされていくのか、

代表取締役社長の松江裕二様に伺いました。

2016年設立の新薬メーカー

 

中:今回はEAファーマ株式会社、代表取締役社長、松江裕二様にお話を伺います。

社長、よろしくお願いいたします。

松江:よろしくお願いいたします。

中:まず貴社の事業内容や特徴をお聞かせください。

松江:当社は2016年に設立されたばかりの若い会社です。

社名の「E」はエーザイのE、「A」は味の素のAです。

この二つの会社の消化器事業を統合し、

消化器疾患領域に特化したスペシャリティ・ファーマとして発足しました。

消化器疾患領域のUnmet Medical Needsを満たす

中:現在の製品群について簡単に紹介いただけますか。

松江:これまで消化器疾患領域はどちらかというと長期収載品に依存する事業モデルでした。

その中で弊社は発足以来、潰瘍性大腸炎治療薬と慢性便秘症治療薬という2つの新薬を上市しています。

また新たな慢性便秘症治療薬の発売を準備中です。

いずれも新規の作用機序や製剤特性をもち、

これまでのUnmet Medical Needs(満たされていない医療ニーズ)に応え得るものだと考えています。

中:ありがとうございます。

後ほどより詳しく製品の特徴や貴社の今後の展開などについてお伺いさせていただきます。

その前に松江様ご自身のご経歴について、少しお尋ねいたします。

貴社は一昨年に設立されたばかりとのことですが、それ以前、松江様は何をされていたのでしょうか。

松江:大学卒業後、エーザイに勤務していました。

エーザイに勤めている時に社内留学制度に応募しアメリカに留学し、

帰国後は20年ほど国際ビジネスに関わってまいりました。

そして2017年2月に当社の社長職へ就きました。

米国でのビジネス展開

中:ご留学後も国際ビジネスに携わっていたということは、海外での勤務歴がかなり長いのですね。

松江:留学からの帰国の時期がちょうど認知症治療剤「アリセプト」の販売開始とタイミングが重なり、

エーザイはアメリカでの上市に向けた準備を始める段階でした。

私はその販売戦略の立案から関わり、アメリカに駐在して販売会社を立ち上げるという任を担いました。

社員5人、売上0からスタートし、7年の駐在を経て帰国する時には社員1,000人以上、売上は1,700億円を超えていました。

エーザイが正に国際化しダイナミックに変わっていく時期でした。

中:海外での経験が長くおありですと、

帰国されてから何かとギャップを感じることがございませんでしたか。

松江:アメリカと日本の医療環境は、時間的なずれがあるものの、

それほど大きな違いがあるとは感じません。

アメリカが10年前に経験したことを日本が後追いで経験しているように思います。

例えばいま国内で盛んに言われている「地域包括ケア」の推進も、

アメリカでは数年前までにずいぶん整備され、今では一般的になっています。

日本のヘルスケアシステムの課題

中:すると、これからの日本の医療の課題、

あるいは製薬企業としての課題はどのようなことだとお感じになりますか。

松江:日本のヘルスケアシステムは世界でトップクラスだと思います。

その理由の一つは医療の技術と質が極めて高いということ、

もう一つは国民皆保険制度によるアクセスの高さです。

特に後者の存在は間違いなくアメリカより優れている点です。

しかし今、高齢化により皆保険制度の維持が困難になってきました。

国民皆保険制度を維持するために、

医療に従事されている方みなさんが効率性を追求しなければいけないのではないかと感じています。

我々のような製薬企業であれば、

有効性・安全性の高い薬をいかに効率的に開発し流通させていくかに力を入れていかなければいけません。

日米の看護師の違い

中:医療スタッフ、特に看護師の日米の違いはどのように感じられましたか。

松江:アメリカの看護師は比較的自分の役割がはっきり決まっているように思います。

一方の日本のナースはそれぞれが多くのことをされていて、

かなり忙しく働いていらっしゃるように感じます。

中:先ほどのお話で、アメリカで最終的に1,000人超の社員がいらっしゃったとのことでした。

それだけの外国人社員をまとめ上げていく時、何がポイントになりますか。

松江:外国人との付き合い方という点で言えば、相手をリスペクトすることが一番重要だと考えています。

一方通行でなく相互のリスペクトです。

ただ、アメリカはダイバーシティーが日本よりはるかに進んでいて、

子どもの頃からお互いリスペクトすることに慣れています。

ですから私が社員に向けて、その重要性を伝える必要性はありませんでした。

私はむしろ、企業文化についてたびたび社員に話しました。

企業理念と言った方が良いかもしれません。

自分たちが何を成し遂げようとしているのかをはっきりさせ、

社員が同じ方向を向くことが何よりも重要なことだと私は信じています。

厳しくても楽しく働く

中:いま伺ったことを医療機関のマネジメントに援用できないかと考えたのですが、

医療従事者は国家資格を所有しているため必ずしも現在の所属先にこだわる必要がなく、

理念のもとに集うということがなかなか難しいのかなと思いました。

松江:社員を前に私が申し上げることは「楽しく仕事をしよう」ということです。

仕事がたとえ大変で厳しくても、それにやりがいを感じられれば、喜びを得られるはずです。

この点においては、企業も病院の経営もあまり変わらないのではないでしょうか。

我々のような製薬企業にも、薬剤師はもとより医師など国家資格所有者が多数勤務しております。

要は「あなた達が今やっている仕事は、本当に重要なことなのだ」としっかり伝えることが

マネジメント上のポイントだと思います。

企業理念と適応力

中:ありがとうございます。

ここまでアメリカでのお話を中心に伺ってまいりましたので、

ここからは現在のお仕事についてお尋ねします。

2社の事業部門が一つになって貴社がスタートされたとのことですので、

企業文化の融合など、ご苦労があったのではないでしょうか。

松江:二つの文化を引き継いだこと自体はダイバーシティーの広がりという意味で

良いことだと考えています。

ただしそこに1本の軸を通さないとバラバラになってしまいます。

その軸は何かと言うと、先ほど申しました企業理念です。

弊社においては消化器疾患領域の新薬を開発してUnmet Medical Needsを満たすことです。

それと並んでもう一点大切なことがあり、それはしなやかな適応力を持つことです。

今、医療全体もそうですが製薬産業を取り巻く状況は本当に激動の時期です。

このような時代には変化に柔軟に適応していかなければ時流に乗り遅れてしまいます。

以上の2点の重要性を社員にたびたび伝えています。

検査値に現れない医療ニーズ

中:新薬開発、特に消化器疾患領域に特化して新薬開発をされることの意義や難しさに関して、

少し解説いただけますか。

松江:新薬開発全般について言えば、かつて一般的に「10年、100億」かかると言われていたコストが、

今では開発期間は15年以上に伸び、開発コストは数倍に膨れ上がっています。

また新薬メーカーはかつてのように長期収載品に頼ることはできず、

新製品を生み出すことができなければ成長できない仕組みになっており、厳しさは増しています。

このような状況で間もなく3剤目の新製品を上市できることは、弊社の開発陣の努力のおかげであり、

感謝するところです。

これに加えて消化器疾患においては、健診等の検査結果から病名が特定しにくい場合が多いように思います。

例えば、便秘は健診等の諸検査で発見されるものではなく、

患者さんの訴えがなければ治療が始まらない症状です。

実際に慢性便秘で治療を受けているのは患者さんの一部に過ぎず、

QOLが低下している状態を「仕方のないこと」だと考えている方が少なくありません。

弊社では慢性便秘症の新薬を発売しましたので、そのような患者さんが適切な治療を受けられるよう、

医療従事者の方々に対し情報提供活動を地道に継続していかなければいけません。

後編に続く

Interview with Kubo & Araki