恵寿総合病院が特別な理由
看護部と介護部の分業、そして日本一働きやすい病院を生む仕組みを学ぶ

8月25日に石川県七尾市の恵寿総合病院を訪問しました。
恵寿総合病院は、日本一働きやすい病院アワード2024で大賞を受賞され、2021年には日本の病院で初となる「介護部」を設立されています。他にもDXや先進的な取り組みをされているということは伺っていましたので、実際に病院訪問をさせて頂くことを楽しみにしておりました。
東京から能登へ
東京からANA便で能登へ向かいました。快晴の空の下、機内からは富士山を望むことができました。


のと里山空港に到着後は、予約していた乗り合い「ふるさとタクシー」で七尾市へ向かいました。空港へ到着すると、空港出口すぐの場所にタクシーが止まっていてとても便利です。車窓からは能登の美しい海が広がっている一方で、震災復興中を感じる場所がまだ多く存在していました。


恵寿総合病院が実践する「先端医療から福祉まで生きるを応援」とは

10の取り組みについては、恵寿総合病院のホームページでも詳細に紹介されています。
https://www.keiju.co.jp/about/advantages/keiju_feature/#4
今回は、この中でもシンカナースにとって非常に関係が強い「看護補助者業務」について深く学ばせて頂きました。
まず、一般的な病院では看護補助者は看護部に所属し、指示命令系統も看護師から看護補助者へ直接行っています。しかし、恵寿総合病院では、診療報酬上における看護補助業務を「介護」と位置付け、病院内に2021年より介護部を設立されています。介護部は生活の世話を専門としており、介護の専門性を活かし入院患者さんの生活をサポートしています。
患者さんの状態と看護必要度に応じて、看護師と介護部が療養上・生活上の支援を分担する仕組みとすることで、医療的に看護必要度の高い患者さんは看護師が担当し、病状が安定して生活支援の割合が高くなった患者さんには、介護部が専門性を活かして担当しています。
恵寿総合病院の公式サイトでも、病院介護部を日本初の取り組みとして紹介し、2024年9月には介護部が100名に達したと記載されています。
また、働きながら初任者研修・実務者研修等を受講でき、独自のマイスター制度も整備されています。介護部の介護福祉士国家資格取得者は41名と紹介されており、「生活のお世話」を専門職として担う組織づくりが進められています。 今回の見学では、介護部所属のアシストクルーが、患者移送支援、入浴介助支援、環境整備、機材整備などをそれぞれ専門的に担当していることを伺いました。求人も業務別に行い、採用後に一人へ多様な仕事を集めるのではなく、本人が選んだ分野で専門性を高める運用です。
阪口看護部長に聞いた「属人化させない分業」
「必要な分業や分担は、個々の看護師で決めず、看護部、介護部双方の部長同士で話し合う。属人化させない、標準化させることが大事です。」
阪口看護部長から最初に伺ったのは、業務分担を現場の個々人の判断だけに委ねないことでした。看護部長と介護部長が話し合い、組織として役割を決める。誰が勤務していても依頼内容や業務範囲が大きく変わらないよう標準化することが、分業を継続するための前提になります。
日々の関わりでは、職員を「助手さん」など職種名だけで呼ばず、基本的に名前で呼ぶことも意識されています。業務を分けても、人を上下に分けない。制度と日常の言葉の両方で、対等な関係をつくる考え方が印象的でした。
職員が働く意欲を保ち続けるために
阪口看護部長は、教育や挑戦の機会を平等に提供すること、看護管理者研修を毎月実施し、管理者同士が対話する機会をつくること、若手が主任や師長へ相談できる関係をつくることを挙げました。看護部長から主任への面談は年1回、BSCを用いて行い、目標や成長を確認しています。
若手看護師長が企画した「看護を語る研修」には看護部長自身も参加し、職員の良い点を具体的に伝えます。なぜ、そのような声掛けができるのかと伺うと、返ってきたのは非常にシンプルながら感銘を受ける言葉でした。
「私が興味があるのでラウンドしています」
職員に関心を持ち、現場へ足を運ぶことに加え、病院内共有アプリを使用し「サンクスギフト」を看護部長自ら活用し、職員へ感謝を伝えていました。「ありがとう」を個人の気持ちだけに任せず、病院の日常に取り込んでいることも、働く意欲を維持する上で、非常に価値のある取り組みです。しかし、実際にはアプリがあるから感謝が広がるのではなく、こうして看護部長自らが率先して職員に関心を持ち、声掛けやサンクスギフトを送るという行為を通じて感謝の輪が広がっているのだと痛感しました。
看護師の行う看護とは何かという質問には、看護部の理念である「地域の皆さまが『自分らしく生きる』を応援する看護を実践すること」と答えてくださいました。恵寿総合病院の看護部公式ページでも、地域のみなさまが「自分らしく生きる」ことを応援する看護を理念として掲げています。
内田介護部長に聞いた「介護を雑用にしない」組織運用
介護部の立ち上げ時には、神野理事長がキックオフで方針を示し、院長、看護部長を含む病院全体が賛同してくださいました。看護部から介護部へ所属を移し、介護部が自らの専門性と職員を守れる組織を作っています。
「看護にしかできないことは看護が行い、介護にしかできないことは自分たちが行う」
これは、看護師の仕事を単純に介護部へ渡すという意味ではありません。それぞれが専門性を発揮し、患者さんに必要な支援を担うという考え方です。
応募した仕事と、実際の仕事を一致させる
業務別に募集すると、応募が集まりやすい仕事と、担い手が集まりにくい仕事が生じる可能性があります。その際、他の職員へ希望と異なる仕事を担わせるのかと伺うと、内田介護部長の答えは明確でした。
「自分の希望と違う仕事はさせません。環境クルーで応募してきたら、環境クルーとしてプロフェッショナルになってもらいます。」
不足しているから一人へ何でも依頼するのではなく、募集した業務と実際の担当業務を一致させ、その分野のプロとして育てる。恵寿総合病院の公式サイトでも、介護職とアシストクルーを分け、自分に合った仕事ができる環境を特徴として紹介しています。

セルケアと医療DXが、多職種の連携を支える
恵寿総合病院では、分業された職種をばらばらに配置するのではなく、患者さんの近くで多職種が協働できる仕組みと、リアルタイムに情報を共有できるDXを組み合わせています。

病棟内を「セル」という小集団に分け、セルごとに看護師、介護士、リハビリ療法士が患者さんのそばで協働する「恵寿セルケアチーム」を運用しています。栄養士、薬剤師、MSWはセルを横断して関わり、多職種がそれぞれの専門性を発揮しながら共通の目標を持ってケアを行います。
情報共有には業務用iPhoneやTeamsが活用されています。見学時には、スマートフォンにつながるインカムで院内の離れた場所とも連絡できること、写真を使った業務指示により依頼内容を具体化できること、スマートウォッチを活用したバイタル測定などをご説明いただきました。実際に渡り廊下を歩いていると、介護部の方がインカムで移送依頼を受けている場面に遭遇することが出来ました。
分業が進むほど、依頼内容、担当者、患者さんの状態、実施後の報告を明確にする必要があります。デジタル機器は単に業務を速くするためだけでなく、職種間の認識のずれや指示の曖昧さを減らす仕組みとしても機能していました。
恵寿総合病院で確認したのは「分業」「看護部門から独立した組織運用」「業務別の採用・育成」「多職種をつなぐ連携」が、理論ではなく、実際の病院で動いているということでした。
既存の概念にとらわれず革命を起こす
今回の訪問による全体的な印象は「洗練された革命」でした。神野理事長が様々な場でお伝えになっている「病院をぶっ壊せ」という言葉は、力強いメッセージです。しかし、実際に病院で実践されているのは、力強さの先にある、緻密で洗練された革命だと実感することができます。
介護部という新たな組織を設立することで、曖昧だった看護補助者の業務内容と立場を整理し、DXによって各職種が専門性を発揮しやすい環境を整える。一見すると効率化だけで終わりかねない仕組みに、経営者や管理者が職員への関心と感謝を注ぎ込むことで、血の通った組織運営へつなげていました。
システムによって効率化や迅速化を達成するだけではなく、その仕組みの隅々まで電流を流し込む経営者・管理者がいるからこそ、「日本一働きやすい病院アワード2024」の大賞につながったのだと感じます。
職員の皆様が病院とは思えない(笑)挨拶、丁寧な言葉遣い、笑顔、落ち着いた所作をされていたことに驚愕しましたが、これこそが洗練された革命の結果なのだと感動しながら病院を後にしました。
最後に、神野理事長、阪口看護部長、内田介護部長、常務理事、理事をはじめ、長時間にわたりご説明・ご案内くださった三浦課長、恵寿総合病院の皆様に、心より御礼申し上げます。


帰路の「のと里山空港」ピカ〜っと看護補助業務の未来に希望を持つことが出来ました
参考・取材情報
恵寿総合病院「けいじゅの『生きる』を応援する10の取り組み」(医療DX、恵寿セルケアチーム、病院介護部)
恵寿総合病院「日本一働きやすい病院アワード大賞を受賞しました」https://www.keiju.co.jp/about/advantages/keiju_feature/#4
恵寿総合病院「看護部」
https://www.keiju.co.jp/department/nursing/
恵寿総合病院「介護部」
https://www.keiju.co.jp/department/nursing-department/
取材・写真:シンカナース株式会社(2026年8月25日、恵寿総合病院訪問)