人口の高齢化とともに重要性を増す慢性期医療。中でも認知症への対応は社会的な課題となっています。
1974年の開設以来、認知症の医療に注力してきた鶴川サナトリウム病院の院長、小田切統二先生に、
病院の変革や先生ご自身の履歴をお話しいただきました。
嶋田:今回は、鶴川サナトリウム病院院長、小田切統二先生にお話をお伺いします。
先生、どうぞよろしくお願いいたします。
まず、貴院の特徴を教えてください。
小田切:当院は慢性期医療を担い、精神科に加え、内科、老年内科を標榜しています。
1974年の設立以来、精神科では主として認知症を専門としてきました。
これは当院が、認知症の標準的診断法である長谷川式スケールを開発された、
長谷川和夫先生の指導のもとで歩んできたという背景があるためです。
認知症は高齢者に多いため、内科疾患を併発されている方が少なくありません。
そのために内科、老人内科を併設し、一人の患者さんに対して常に、
精神科と内科、双方の医師が併診します。
このような特徴もあって、2015年には東京都から認知症疾患医療センターの指定を受けております。
嶋田:先生が院長に就任されたのはいつでしょうか。
小田切:大学に長年勤めた後、当院から声をかけていただき20年以上前に院長に就きました。
ただしその後いったん当院を離れて別の急性期病院の院長を9年ほど勤め、
今から8年前に再び戻って参りました。
嶋田:急性期病院でのマネジメン経験も豊富でいらっしゃるのですね。
少し先生のご経歴についてお伺いさせてください。
大学時代のことからお聞かせいただけますか。
小田切:大学は昭和大学です。
山岳医療を手伝うクラブに入りまして、夏場は北アルプスの白馬岳診療所に泊まり込んでいました。
白馬岳は雪渓と綺麗な花畑が有名で、比較的登りやすい山ですから、女性やお子さん、高齢者も来ます。
東京や関西方面から夜行列車で乗り付けて、そのまま休まずに3,000m級の山へ上がって来られた結果、
いわゆる高山病で倒れる方が非常に多いのです。
主にそういった方の対応をしていました。
高地ですから呼吸が苦しいと訴える方も多くいらっしゃり、
そういう方の処置をしているうちに呼吸器領域に興味を持ち始めました。
医師になってから呼吸器・アレルギーを専門としましたのは、それがきっかけです。
嶋田:呼吸器科の面白さはどのようなことでしょうか。
小田切:呼吸器の臓器としての特殊性は、入口と出口が一緒という点です。
吸気と呼気が同じ経路を通ります。
そのため臓器の内部が常に外界の異物、埃や細菌やウイルスにさらされています。
その影響で非常に多くの疾患が発生します。
それをいかに正確に鑑別して疾患特異的な治療を進めていくかが呼吸器科の面白さだと感じます。
嶋田:大学ご卒業後はどのようなご経歴をたどられましたか。
小田切:大学の医局に入りまして、20年近く臨床と教育をしておりました。
その後、当院からお声がけいただき、院長に就いたという先ほど申しました流れです。
当院は当時から認知症に力を入れていましたから、
呼吸器専門医は畑違いのように思われるかもしれません。
しかし、高齢者を診ていく以上はやはり内科が必要だということで呼ばれました。
嶋田:貴院の院長としては9年間のブランクがあったとのことですが、
その間に何か変わったことはありませんでしたか。
小田切:その間に精神科医療も様変わりしました。
精神科において昔は統合失調症や躁うつ病などがメインで、認知症はマイナーな位置付けでした。
高齢化がそれほど進展しておらず、認知症自体が少なかったことも関係しています。
しかしこの20年ほどの間に急激に認知症に目が向けられるようになりました。
その点、当院は早めに取り組みを開始していたわけで、今になってみると良い判断だったかなと思います。
嶋田:先生ご自身の医療に対する考え方に変化はございませんでしたか。
つまり、以前の呼吸器臨床医や急性期病院の院長時代から、
認知症の方を多く診られる医療環境に変わられ、何かお感じになったことはございますか。
小田切:急性期病院は病気を治す場所です。
しかし慢性期の病院では治らない疾患も診ます。
残念ながら認知症もいまだ根本的な治療法がありません。
となると、高齢社会ではどうしても後者の存在がより重要になってきます。
これに関連して、単に医療の問題に止まらず、社会経済学的にも無視できない課題が発生します。
例えばここ町田では現在すでに人口43万のうち65歳以上が25%、75歳以上が14%を占め、
2040年には75歳以上が20%になると推計されています。
そして、あと10年も経つと、医療費の半分を75歳以上の人口に当てる必要が生じると言われています。
嶋田:地域における貴院のような医療機関の存在意義がますます重くなりますね。
小田切:そのように考えています。
特に当院が認知症疾患医療センターに指定されて以降、認知症の鑑別診断や、BPSD(認知症の周辺症状)
のために急な入院を必要とする方への対応が、従来以上に求められるようになりました。
それら以外にも、認知症を早期に見つけるための啓発活動、多職種連携のコーディネートなどなど、
業務の幅が広くなったことを非常に強く感じております。
嶋田:今、医師の働き方改革が議論になっていますが、ますます忙しくなりそうですね。
小田切:難しい問題ですけれども、国の施策ですから対応していかなければなりません。
その解決策の一つが看護師への業務や権限の委譲なのかもしれず、
特定行為の拡大やナースプラクティショナーの導入といった話も当然そこに絡んできます。
当院は看護師特定行為の指定研修施設に認定されていて、すでに修了者を輩出しています。
こういった取り組みはこれからも続けていく方針です。
後編に続く