前編に続き小口先生に、これからの看護師への期待や看護学生へのメッセージ、
先生のご趣味などについて語っていただきました。
中:看護師に関する質問を続けさせていただきます。
先生が看護師に期待する理想像はございますか。
小口:人それぞれの個性と能力がありますから一律には言えませんが、
少なくともコミュニケーションがきちんとできる人であってほしいです。
私は大学の卒業式などで式辞を述べるとき「しっかり働いてほしい」とは言いません。
「皆さんが満足のいく幸せな一生を過ごせるように、それぞれ頑張ってください」といったことを話します。
そのための基礎を本学や附属病院で築いていただければと思っています。
中:たいへん広い心で包んでいただいていると感じるお話です。
先生は、大学という一時期だけでなく、人生という長いスパンで教育を考えていらっしゃるのですね。
小口:これは自分の信念ですが、教育とは教えることではないのです。
教育とは学ぶ人を助け、その人の能力を引き出してあげる、それが教育だと確信しています。
看護師さんにもいろいろな才能があるでしょう。
その才能にあったものを引き出せればよく、全員に同じものを望む必要はありません。
人生の目的も一人ずつ違うはずですから。
中:一般社会でも最近はさまざまな場面でダイバーシティー、多様性の重要性がよく指摘されますね。
小口:看護師の仕事にも多様性があります。
仕事に多様性があるならば、もっと広い意味での多様性もあるに違いなく、
看護能力の高い人もいればそうでない人もいます。
ある領域の看護能力が高い人はそれをもっと高めれば良いし、高くない人が別に能力がないわけではなく、
もしかしたらもっと違う領域の素晴らしい才能があるかもしれません。
ですから私としては「必死に頑張れ」とは言いません。
ただ、私がそう言わなくても現場の看護師長さんが「必死に頑張りましょう」と
言ってくださっているかもしれませんが。
中:では逆に、昭和大学で学ぶ人に対し先生が
これだけは伝えたいと思われることはどのようなことでしょうか。
小口:同じ組織に属する者として、最低限なにが共有できるのかということです。
それは私たちの大学の建学の精神、創設者である上條秀介先生の言葉「至誠一貫」です。
たった四文字の言葉ですけども、これだけは忘れないでほしいといつも言っています。
中:そういったどのような時にもぶれず共有可能な精神が基盤にあると、
仕事上の問題が立ちはだかった時、原点に立ち返る座標軸となりますね。
今後2025年問題を間近に控え、日本の医療環境は大きく変わっていくのではないかと思いますが、
貴学ではこれからの展開をどのように考えていらっしゃいますか。
小口:これまで教育改革を継続してまいりましたので、
これからは教育に加え研究の改革もしていきたいと思います。
例えば医師だけでなく、看護師も積極的に研究をした方が良いだろうということです。
研究をするとは、物事を自分で考えるということです。
同じ研究でも基礎ではなく臨床研究や看護研究を充実させたいと考えています。
中:看護研究に関しては、より良い看護の実践に向けてエビデンスを確立し、
それを元に新たな臨床上の課題解決を求めていくという意味でしょうか。
小口:今までは経験知で理論武装していた部分が多かったのではないでしょうか。
チーム医療推進のため、病棟において看護が特殊な存在になってはならず、
他の職種のスタッフと同じ土俵で物事を語れ、かつ教育もできるようになっていただきたい、
それを志す人を多く育てたいと思います。
中:看護の領域でも教育と臨床の乖離がかねがね指摘されています。
そうした中で、臨床を続けながら研究と教育ができる看護師の育成は、
非常に面白い取り組みになりそうですね。
小口:教育と実践の双方ができる教育者であって欲しいと思います。
中:先生がお考えになる理想的な教育者とは、どのようなイメージでしょうか。
小口:教育者に限らず、ある物事に一定レベルまで到達した人というのは、やはりそれが大好きなのです。
「好きこそものの上手なれ」と言うように、まず好きになってほしいところです。
中:貴学に学んだ人が教育であっても臨床であっても、
それを本当に好きだと思い楽しく継続することができれば、
大学としては目的を達成できたということになりますか。
小口:それは本学で育成する医療従事者だけでなく、どの領域でも同じではないでしょうか。
金融、製造、司法、もちろん第一次産業の方も、自分の仕事内容に満足できれば誇りが生まれます。
自分の人生にプライドを持てるようにしてあげたいと、私は思います。
中:昭和大学を卒業した人たちの人生が豊かになってほしいということですね。
小口:それがまた私たちの喜びでもあります。
中:何か素敵なサイクルが描き出されていくように感じました。
中:最後に先生のお仕事以外の時間の使われ方をお聞かせください。
小口:アイスホッケーの学生さん達と話をしたり、一緒に試合を見に行ったりするのが好きですね。
中:アイスホッケーですか。
小口:はい。
学生時代にやっていました。
その後もずっとコーチや部長などを務めたりして、もう50年ほど関わり続けています。
アイスホッケー以外ではもともと読書が好きです。
私の好奇心を満たしてくれるものは何でも受け入れております。
中:先ほど、大学に進む前は哲学や人間の本質にご関心があったとおっしゃいましたね。
理事長職を務められている今も読書や文学を通じて
人の心の機微を探求するといったことをされていらっしゃるのですか。
小口:本格的に勉強したわけではありませんが、
人を見ると「この人なにを考えているのかな、どういうふうに生きてきたのかな」と思います。
自分自身が何者なのか客観的に把握するには、人はどうなのかを見ないとわかりません。
中:ありがとうございました。
それでは改めて看護学生・看護師へ向けてメッセージをお願いいたします。
小口:看護師をはじめとする医療職は、たいへんやり甲斐のある職業です。
一生懸命続けていれば、人々から感謝されます。
本学の建学の理念にある、社会に貢献する医療人であることを実感できる職業です。
興味がある人はぜひチャレンジしていただきたいと思います。
昭和大学は、建学の理念とて「社会に貢献する優れた医療人の育成」を掲げられています。
すなわち、医療人材を育成するための専門大学です。
小口理事長も自ら医学部で学ばれた医療人であり、医療人、教育者、経営者という多方面の視点からお話くださいました。
看護には、教育や研究が出来る臨床スタッフの育成を目指されていらっしゃるというお話に
看護の明るい未来を感じることが出来ます。
看護が進むべき未来の一つの指針を与えていただいたインタビューとなりました。
シンカナース株式会社 代表取締役社長
東洋大学文学部国文学科 明治大学大学院グローバルビジネス研究科 経営管理修士(MBA) 日本大学大学院総合社会情報研究科 総合社会文化博士(Ph.D.) ニュージーランド留学 帝京大学医学部附属病院 東十条病院 三井住友銀行 A-LINE株式会社/代表取締役社長 東京医科歯科大学非常勤講師 同志社女子大学嘱託講師 著書『わたしの仕事シリーズ2 看護師』新水社