医学部、歯学部、薬学部、保健医療学部という医系4学部を擁する昭和大学を運営している
学校法人昭和大学。
建学以来90年にわたり実臨床で有用とされる人材の育成を特色としてきています。
理事長の小口勝司先生に、建学の精神や法人としての今後の展開を伺いました。
中:今回は学校法人昭和大学、小口勝司理事長にお話を伺います。
どうぞよろしくお願いいたします。
小口:よろしくお願いします。
中:まず、貴学・貴法人の概要と特徴をお聞かせください。
小口:学校法人昭和大学は、昭和大学を運営している法人です。
昭和大学は昭和3年に昭和医学専門学校として設立されました。
建学の理念は「社会に貢献する優れた医療人の育成」です。
この理念は、設立5年前に発生した関東大震災の際に
「果たして自分たち医療者は理想的な医療ができたのか」という、設立に携われた先生方の反省に端を発します。
つまり、実践能力の伴わない医師ではいけないということです。
もちろん医師にとって研究は重要ですが、臨床実地ができて初めて医師としての研究が成立する、
という見地のもと誕生した学校です。
それ以来90年、社会に貢献できる優れた医療人を育成すること校是としてまいりました。
この考え方は学部に関わらず本学の教育の根底にあります。
医師ばかりでなく、病院の中ではコメディカルスタッフも含めて全員が医療人ですから、
その全てにおいて優れた人材育成を目指さなければならず、
そのためのシステムを形成することを目指しています。
中:「システムを形成する」ということについて、少し具体的にお聞かせいただけますか。
小口:例えば私が「こうしたら良いのではないか」とか
「これをすれば皆さんがより興味を持って先に進むことができるのではないか」と考えた時に、
検討を重ねた上で制度として定着させるということです。
理事長という職においては「制度作り」をする場面が多々あります。
中:制度作りですか。
貴学のように医療系の人材育成に特化されていますと、
全て有資格者、プロフェッショナリズムを持った人間を育て上げることになりますので、
制度作りにおいても他の一般の大学より難しい面があるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
小口:自分自身がそのような環境で育ってきましたから、
それがあたり前のように感じているのだと思います。
ですけども他大学、特に文系の人材育成とは異なっていることは良く理解できます。
中:ご生育環境のお話が出ましたので、ここで少し先生のご経歴についてお尋ねさせていただきます。
先生が医学の道に進もうとされた経緯はどのようなことでしたか。
小口:私は本学創始者の末裔ですので、ある意味、宿命的に医師になったのかもしれません。
ただ、私自身は大学進学前、どちらかというと文化・芸術など文系学部に興味がありました。
人間の生きざまや哲学にも興味があり、
それを科学的に研究して人間の本質を見極めるにはどうすれば良いのかと考えた末、
「医学部に入って研究しよう」と決めました。
中:どのような領域のご研究をされていたのでしょうか。
小口:大学院では薬理学、特に中枢神経系の薬理を専攻しました。
人間が思考するメカニズムを薬理学的に解明できるのではないかと考えたわけです。
その後、留学をしたりといろいろ勉強してきました。
いまだに興味があります。
人間が相手の研究ですからいくらでも追究すべき事象がありますから。
いろいろ考え続け、歳を重ねてきますと最終的に、教育、人を育てるというのはどういうことなのかと、
教育の本質に思いを巡らすことが好きになりました。
中:ご研究されてきたことが現在の理事長職にも繋がっていらっしゃるのですね。
人の内部を追い求める探求心がおありだったからこそ、教育に興味を持たれて、
そして理事長として職責を担っていらっしゃるように感じました。
小口:そうかもしれませんね。
好奇心がとても強いことは確かです。
どんなことでもやってみたい、試してみたい、そして見てみたいと思います。
そして、どうしてだろう、なぜだろう、どうしたら良いのだろうと考えることは大好きでした。
中:ありがとうございました。
先ほどの、文系の人材育成との相違のお話の続きをお願いします。
小口:本学には国家試験がある学部しかありません。
いろいろ提案をいただくこともありますが、文系の人材育成はしないで医系に特化する方針です。
そうでないとさまざまな価値観が混在してしまいます。
一つの旗印のもとに集まれるようにしたい、全員が一つの目標に向かえるようにしたい。
そのためには医系総合大学として存在し、それ以外のものは作りません。
中:現在の学部構成で充分ということでしょうか。
小口:学部はそうですが、コメディカル関連の大学院は拡充したいという考えもあります。
なぜかと申しますと、医師や歯科医師の育成に関しては、
大学の学部における教育が後進の指導者を育成する機能を果たしていますが、
コメディカル関連の学部はどちらかというと職業訓練的な要素が強いからです。
さらにもう一つ上の大学院に上がってリーダーを作る必要性を感じます。
中:その対象には看護師も含まれますね。
小口:看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、放射線技師、検査技師、管理栄養士等、
コメディカルの人たちのため大学院コースを作り、
医療におけるコメディカルの地位を高めていくことが必要だろうと考えます。
中:私どもは看護師・看護学生向けのWebメディアなのですが、
貴学における看護師育成の特徴は、どういったことかお聞かせいただけますか。
小口:個々人が人生で何をすべきかは本人が決めるべきであって、
その選択肢を本学が広げてさし上げるというスタンスが最善なのではないかと思うのです。
ですから看護師に関しても、本学の関連病院群を紹介し
キャリアシステムをお示しすることはできますけども、それが全てではないのですね。
冒頭に申し上げましたように、本学が育成すべき人材は「社会に貢献する優れた医療人」であり、
本学に貢献するだけの医療人でありません。
つまり本学で学べば日本中どの医療施設に行っても立派に活躍できる人です。
どこで何をしたいかはご自身が決めることで、大学がレールを引くものではないと私は考えています。
後編に続く
シンカナース株式会社 代表取締役社長
東洋大学文学部国文学科 明治大学大学院グローバルビジネス研究科 経営管理修士(MBA) 日本大学大学院総合社会情報研究科 総合社会文化博士(Ph.D.) ニュージーランド留学 帝京大学医学部附属病院 東十条病院 三井住友銀行 A-LINE株式会社/代表取締役社長 東京医科歯科大学非常勤講師 同志社女子大学嘱託講師 著書『わたしの仕事シリーズ2 看護師』新水社