No.2 伊藤貴子様(みつわ台総合病院)「1人1人の顔と名前、生活背景を一致させること」1/2

インタビュー

第2回目のインタビューはみつわ台総合病院の伊藤貴子(いとう たかこ)看護部長です。長年看護部長を務めた平松理事からバトンを受け継ぎ、平成27年4月看護部長に就任されました。自身の出産がスタートだったというみつわ台総合病院との関わりは、就職という形へと発展し、来年勤続10年を迎えます。そんな伊藤看護部長に、就任してからの取り組みや将来への展望を伺いました。

200人の看護師1人1人を把握

〜看護部長になって2年目を迎えました。普段どんなことを大切にして仕事をしていらっしゃるのでしょうか?  

伊藤:1番大切にしているのは、スタッフ1人1人、個々の生活が充実した上で仕事ができるように、個人の状況に合わせた環境を用意するということですね。そのために最も重要なのが、勤務する看護師約220人、1人1人の顔と名前、生活背景を一致させることです。これは昨年まで看護部長を務めた平松理事も大切にしてきたことで、私もその想いを受け継ぎ実践しています。1年たってようやく達成できたように思います。

顔と名前が一致すると、例えば前日に子供が熱を出して仕事を休んだ看護師とすれ違えば「もう出てきて大丈夫なの?お子さんの具合はどう?」と挨拶以外の声掛けができるんです。無理して出てきたのではないか、気にかけていることが相手にも伝わる。そのことが看護師定着につながっていくと信じています。

心も体も現場の近くに

〜200人もの看護師を把握するために、具体的にどのように動いていらっしゃるのですか?  

伊藤:何かあればすぐ現場に飛んでいくんです。誰かから聞くよりは自分で見て聞いて確認した方が確実ですからね。現場で顔を見て仕事ぶりを見てわかることも多いですよ。こちらから足を運ぶことで「話したいことがあったんです」「看護必要度のここがわからなくて」「保育園のことで相談が」など、様々な相談ごとをされることもあります。

私が就職した時から看護部と現場との距離が近いなと感じていたんですが、お互いに意見が言いやすい環境が整っているからなんですね。平松理事が看護部長として構築してきた看護師が働きやすい職場環境づくりを受け継ぎ、今後よりよい方向へと導いていくことができればと考えています。

〜2人の子育てをしながら看護必要度の中心的メンバーでもある伊藤部長だからこそ話せることもあるのでしょうね。 

平松:「誰でも気軽に出入りのできる部長室」をモットーにしています。昔は看護師たちの駆け込み寺のような存在で「疲れた」「大変」「何とかしてほしい」といった悲鳴とも言える訴えをする場だったんです。今では「ちょっといいですか」と気軽に足を運んでくれるような場になりました。

ジェネラリストのその先を目指して

〜看護師をとりまく環境についてこちらの病院の現状と課題についてどうとらえていらっしゃいますか? 

伊藤:千葉県は看護師不足全国ワースト2という厳しい現状に直面していて、その中でいかにして看護師を獲得していくか、定着させていくかは大きな課題です。その中で私自身の課題としたことは、離職率を10%以下にすることです。これまで平成24年度だけ達成したものの、他の年は10〜11%台で経過しています。

看護師の平均年齢は34〜35歳で中堅レベル、2名の認定看護師を除けばいわゆる”ジェネラリスト”の看護師が多いのが特徴です。看護師たちが現状をどうとらえているのか、それを把握し私自身の課題解決も含め、職員の満足度調査を実施しました。その結果、全体の7割を占めている子育て中の看護師にとっては働きやすい環境が整っているものの、残り3割、独身・子供がいない看護師たちの満足度は決して高いものではなかったのです。自身の仕事に対する自己肯定感、職場での存在感が満足でもなければ不満足でもないという結果に考えさせられました。うちの病院は中途採用の看護師が多いので、看護の能力は高く医師からの信頼も厚いんですよ。そんな彼女たちのキャリア形成、ジェネラリストからその先への成長を考えることが必要だとわかりました。そのためにキャリア形成の研修の中身を考えていきたいですね。うまく刺激を与えて今後リーダーシップをとってもらえる人材に育ってもらえたらと思います。

個人で関心を持って呼吸療法士の資格をとった看護師もいますが、これを勉強したい!と思うと大きな病院に移っていってしまう現状です。ステップアップの支援は病院でも取り組んでいるものの、教育のボリュームが特定看護師(特定行為に係る看護師の研修制度)へとシフトしてしまい、認定看護師の教育が病院の近場で実施されなくなり、勧めたくても勧められない現実もあって難しいところです。

職員研修の中に楽しさを

〜教育にも工夫をされていて、研修の中でストレス発散の場を提供されているそうですね。 

伊藤:新卒・既卒を含めた新入職員研修の中で、真面目な講義だけでなく、ヨガ・アイスクリーム作りといった様々な「遊び」の企画も用意し、打ち解けながらも日々の仕事につながるような思考作りにつながる企画を教育委員会が中心となって考え実践しています。ストレスを発散させるためのサポート

子育て中の看護師たちも出席しやすい時間・内容を吟味し企画しています。時間外になりがちな研修時間をなるべく勤務時間内に設定したり、内容を工夫したり、参加したくなるような研修にしようと頑張っています。決してこれが正しいのかわかりませんが、手探りでいろいろな方法を試していくことが大切だと思いますね。

平松:特に新卒看護師については、10年前までは毎年10〜15人を採用してきましたが、2006年からいわゆる「7:1」が導入されてからは5人程度の採用にとどまっています。それはもう一気に変わりましたよ。奨学金を用意して看護師確保に励んでいますがなかなか厳しいですね。入ってきた新卒の子たちの教育を充実してなんとか定着させたい、これも大きな課題です。

<シンカナース副編集長 インタビュー後記>

1年かけて看護師全員をバックグラウンド含めて把握されたと伺って、人をとても大切にした温かみのあるお人柄が伝わってきました。看護部長はスタッフに近い存在なのだという認識を平松理事の時代から院内に広めてきた効果は、看護師の働きやすさという形となって表れています。一方で、看護師の定着・キャリア形成といった課題を抱えた現状もあり、伊藤看護部長はそれをご自身の課題として受け止め、3A(安全、安心、明るい)な職場作りを含め、改善策を検討中だといいます。子育て中の中堅看護師のキャリア形成については、どの病院の看護部も課題として挙げられるのではないでしょうか。伊藤看護部長が1人1人を把握していることで、個別具体的な対策が生まれることを期待したいです。

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