No. 68 辻 夏子様 (あがの市民病院) 後編:本質を考え、患者様の思いを大切にする

インタビュー

前編に引き続き、あがの市民病院の辻夏子看護部長へのインタビューをお届けいたします。

その人らしさを大切にする

看護部の理念を日々実践していくために心掛けていらっしゃることはございますか。

辻:「その人らしさを大切にする」ということは、相手の言うことをそのままその通りにするということではなく、患者様やご家族との言語的コミュニケーションや非言語コミュニケーションをしっかりと行い、患者様のこだわりや好きなことなどを理解することだと思っています。

そしてまた、患者様のできることやしたいことを理解し、できる限り今まで通りの日常生活に戻って頂けるように支援していくことが大切だと思います。

たくさんの入院患者様がいらっしゃいます。思うようにならなくて、時々暴言であったり、物を投げるような患者様もいらっしゃいますが、そんな時私たち看護者は「暴力的な人だ」というレッテルを貼りがちです。

そのようなときには、どうして患者様はそのようにおっしゃるのか、どうしてそのような行動をされるのかをしっかりと考えられる人であって欲しいと思っています。

実は昨日、看護部の管理会議でした。私は看護部の理念である「その人らしさを大切にするということについて、師長さんはどのように考えていて、今はどのような状況ですか」と質問をいたしました。すると、「患者様やご家族の思いを大切にする意識が強くなってきました」という嬉しい言葉が返ってきました。

また、ある師長からは「認知症の患者様も多くいますが、挿入されている管などを抜こうとしてしまったときにすぐに身体抑制をすることは大変危険だと思います。なぜ抜こうとするのか、もしかしたら管の入り方が気持ち悪いのではないかなど考え判断する必要があると思います」と話してくれました。

また、「きめ細やかな看護ができるよう検討するべきであり、すぐに身体抑制をしようと判断することは怖いことだと思います」という言葉が師長さんから自然に出てきたことを、本当に嬉しく、頼もしく感じました。

また私自身も看護部長として、理念、目標、そして個人目標をリンクさせて折に触れては立ち止まって考えてくれるように、働きかけることを意識しています。

実際に看護部の理念を実践していくことに対し、難しさはございますか。

辻:目指す理念、そして目標があるのに、日々の忙しさに追われて、つい大事な事を忘れてしまいがちです。

理念の意味や、あるいは日々の業務との結びつきを、ひとり一人のスタッフが立ち止まり考えてもらえるように、師長と共に声をだしていく必要があります。患者様やご家族が求めている一番大切なところだと思います。

看護の理念をしっかり意識して日々の業務にあたっていただけるようにしていくことが、私の責任でもあると思っています。

看護補助者は大切なパートナー

看護補助者さんは何名くらいいらっしゃいますか。

辻:50名ほど在籍しております。

介護老人保健施設もありますので、介護福祉士もいますが、介護経験のない看護補助者も在籍しています。

看護補助者は夜勤もされるのでしょうか。

辻:一部の部署で、準夜帯の夜勤を看護師共にしていただいています。あとは、老健や療養病棟で2交替勤務をしていただいています。

看護補助者の役割はどのような内容なのでしょうか。

辻:医療行為はできませんので、患者様の身の回りのお世話が主になっています。

具体的な業務内容は技術チェックリストを用いて評価しており、師長や主任が中心となり介護教育に力を入れています。

介護教育で大切にされていることはございますか。

辻:できていること、できていないことを自分自身でも評価し、安心、安全に技術が実施できるようにしていきたいと考えています。

そして未経験の方には技術だけを覚えるのではなく、本質的なことをきちんと看護師から伝えていくことがとても大切だと思っています。

例えば、ベッドメイキングでは、単に綺麗に作るというだけではなく、患者様の大切にしている物が枕元にあれば、患者様の思いを大切にし、きちんと元の位置へ戻してさしあげる必要があります。

このような、本質的な患者様の思いを大切にすることを伝えていくことも看護師の責任であると考えていますし、看護補助者は看護師と共に患者サービスを行っていくパートナーであると考えています。

介護教育を行っていくことで、看護補助者の方々に変化はございましたか。

辻:看護補助者さんに、遣り甲斐を感じてもらうことができるようにしたいです。そのためには、例えば患者様が快適に寒くならないようなオムツ交換の方法など、なぜ?となる根拠を伝えることが大事だよね、と担当師長と話をしています。

根拠を伝えていくことで、看護補助者さんからも「こういうことなのですね」と納得したり、「患者様の笑顔を見ることができました。」という嬉しい言葉を耳にします。

看護補助者さんに活躍して頂くことで、専門的な看護師業務を行う時間を確保することができるため、チームの一員として有り難く思っています。

看護を続けていくためには気持ちを切り替えることが大切

日々お忙しく過ごされる中で、どのように気分転換をされているのでしょうか。

辻:家族と一緒に料理を作ったり、ショッピングをしたり、ドライブをしたりすることを結構楽しんでいます。

私は熊本県出身で近辺の地図が分からなかったため、若いころは主人にいろんなところに連れて行ってもらいました。

主人はアウトドアが好きなので、一緒に登山をして自然を見ることも気分転換になっています。また、気の置けない友人とお洒落をし、語り合いながら食事をすることも楽しいひと時です。

ありがたいことに、ずーっとお姑さんが食事を作ってくださっていました。現在91才で、いまだに自らキッチンには立ってくれていますが、さすがに甘えてばかりはいられなくなりました。また、主人がおかずを一品でも作ってくれると本当に有り難くも感じるため、食卓にご飯とみそ汁のあるありがたさ、また遅まきながら自分で作る楽しさを噛みしめています。

気分転換をし、気持ちを切り替えていくことは大切なことですよね。

辻:看護師は、患者様のことを思い過ぎて家の中でもその人のことを考えたり、病状が悪化したり、お亡くなりになってしまったときに、「自分がもっとこうすれば良かった」と自分を責めてしまうことも少なくありません。

しかし、「私は十分に自分の役割をやっている。自分がいないときには、他のチームのメンバーがきちんと看護をしている」という気持ちの切り替えが、看護を長く続けていくためには大切だと思います。

看護師は真面目な方が多いと思うのですが、それゆえ自分を責める傾向にあります。自分が元気でいることが患者様の元気に繋がっているのですから、自分なりの気分転換を楽しんでほしいです。

看護部長からのメッセージ

新人看護師へのメッセージをお願い致します。

辻:新人看護師の皆さんへメッセージを送ります。

私が新人の頃は、人と比べて落ち込むことがよくありましたが、それは誰にでもあります。

自己嫌悪に陥ることもあります。

しかし私が一つ言いたいことは、「ひるまないで」ということです。

皆さんは本当にこれからですし、技術は後でもついていきます。

ただ大切にしている看護の心をしっかりと携えていけば、必ず技術がついてくるため、ひるむことなく一歩一歩進んでいって欲しいと思います。

そしてもう一つメッセージがあります。

それは、「いつも見守っている」ということです。

私は、直接皆さんとお会いできる機会も少ないかもしれませんが、師長さんや主任さんを通じて聞くこともありますし、あるいは廊下ですれ違ったときのあなた方の様子を見ていることもあります。

いつも見守っていますので、それだけは忘れないでください。

シンカナース編集部インタビュー後記

明るく爽やかな笑顔で迎えてくださった辻看護部長。

終始にこやかに、かつ情熱的にお話をしてくださいました。

お話の中で「自分自身が管理者として不得手な部分にも否が応でも入っていかなければならない」という内容を伺い、不得手なことにも前向きに取り組まれる辻看護部長の勇気を感じました。

自分の欠点を見るということは、かなり勇気のいることだと思いますし、それを克服されるというのは、とてもエネルギーの必要なことです。

そのことですら辻看護部長は「自分自身が成長できる機会でもありました」とおっしゃられており、大変尊敬致しました。

シンカナースの理念でもある、安全、安心、明るい医療を創ることを実際に現場で体現されていらっしゃる辻看護部長にお会いできて、大変光栄に思いました。

辻看護部長この度は、明るく熱のこもったお話をお聞かせいただき、誠にありがとうございました。

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