No. 50 折笠清美様 (新小山市民病院) 後編「看護師と看護補助者の協働が拓く看護の未来」

インタビュー

前編に引き続き、新小山市民病院の折笠清美看護部長へのにインタビューをお届けいたします。

ナイチンゲール理論を実践して看護部を育てる

看護部長になって、どのように看護部を作っていこうと思われたのでしょうか?

折笠:前の病院では教科書がありましたが、ここに来てからはなかったので、今年からナイチンゲール看護理論を取り入れました。

200年前にナイチンゲールが言っていることや、その哲学は素晴らしいんですね。

「患者さんを看てください」と。

「1にも2にも観察だ」と、「私たちの仕事は観察から始まる」と。

「観察の中から看護が生まれてくる。

根拠のない看護は看護でない」ということをずっとおっしゃっていますので、そこをベースに看護部を作ろうと思っていました。また、ものを言える看護部を目指しました。

トップダウンも必要なときはあります。

けれども、何かを取り入れる時に、看護師長会・副師長会でみんなで議論しながら、これはどうしていけばいいかを考えながらやっていくという看護部を目指しましたので、約7年の間、日本看護協会が言われていた、13時間以内の夜勤やPNSの導入などをみんなで進めてきました。

そのナイチンゲール看護理論は本があるのでしょうか?

折笠:そこに私がいつも見られるようにすぐ、置いてあります。

看護覚え書きですね。

折笠:そうですね。でも今師長・副師長会でやっているのはこちらの「ナイチンゲール看護論・入門」というものです。

いろいろな看護理論があって、看護学校ではよくヘンダーソンが使われていますが、就職したらもらったお給料の中で、まずこれを買おうねと話しています。

今、師長・副師長会で一章ずつ読み合わせをしながら、そこに入っている事例をどう考えて、どうスタッフたちに浸透させていこうかということを進めています。

ベースの倫理観や指針がしっかりしていると、看護実践においてどっちを選択しようという場面が多々ある中でも、それに基づいて判断できるようになるわけですね。

折笠:そうなんです。

ナイチンゲールが言われている「看護のものさし」というのがあります。

看護師が看護をしているように思っても、患者さんの回復過程を妨げるようなことをしている場合もあります。

例えば、体位変換一つにしても、人手がいないからと言って看護師一人で体位変換したとするとします。

そうすると、患者さんを引きずることになりますよね。

引きずるということはシーツのしわも一緒に引きずっていくわけで、どこに発赤があるかを確認もできません。

でも二人で持ち上げながら、患者さんの体位変換をすると、患者さんの観察もできますし、発赤はあるのか、シーツのしわは伸びているのかも観察できますね。

ですから、体位変換を一人でやると、患者さんの看護をしているようでもそれは看護ではないんです。

ですから、ナイチンゲールがよく言うのですが、私たちが良かれと思ってやっていることが、時には患者さんの害になっているということもよく理解しなさい、ということを言われるわけです。

だから、一人でやることに弊害があることを考えてみてほしいと思います。

看護理論はわかりにくい、と臨床では敬遠されがちですが、逆に看護がやりやすくなるということも多々出てくるように感じます。

折笠:そうですね。それもそうですし、患者さんの看護をしている時に、2時間ぐらいたって顔色を見てきたらなんか違うと感じることありますよね。

でもそれは患者さんをしっかり観察しているから感じることができます。

それができていなかったら変化を見逃してしまいます。

私たちは専門職として3年なり4年、勉強してきていますから、根拠を持っているわけです。

ただ黙ってじっと見てくるだけなら違いはわかりませんから、根拠を持って観察して下さいとお願いしています。

特定行為に係る看護師の研修制度が始まって、当院からも5人の看護師が研修に行っています。

特定行為ができる看護師を育成することはミニ医者を作るわけではなく、あくまでも看護師という視点が重要だと考えています。

看護師の視点で患者さんを看るための医学的知識であり、それは看護の幹を太らせるために行うものだとナイチンゲールも著書に書かれています。

これは、研修を受けて下さる自治医科大学の村上教授と考えが同じだったものですから、本当にあり難いと思っています。

そこで看護をきちんと実践することで、看護師の誇りがより培われていくということですね。

折笠:そうですね。私たちのプロ意識だと思います。

切り取りたい言葉ですね。

それに関連して、看護部の理念は部長がいらしてから作られたのでしょうか?

折笠:いえ、それはもともとあったものです。

当院は5年前に地方独立行政法人新小山市民病院となって、公務員から独立した経緯があります。

今の理事長である院長が、院長になられてから大きく改革をなさいました。

また、看護部の事も非常に理解して頂いていて、「やっぱりナイチンゲールだ!」と言ってくださって「看護の勉強もしているよ」と言って下さり、とてもありがたいと感謝しています。

まさに院長と事務長、そして折笠部長と3人で一緒に病院全体を盛り上げてこられたのですね。

 

看護師と看護補助者の協働が拓く看護の未来

 

全国各地に大学の看護学部ができて、看護の若手を作ろうという動きは非常にありがたい部分ですが、逆に質の一定化がなかなか難しいという課題もあります。ナースの教育もされつつ、また無資格の方たちとの協働という部分で、何か取り組まれていることはありますか?

折笠:有資格者は根拠を持っているというところがあると思うので、そこはフルに活かしていただきたい。

じゃあ根拠を持たなくてもできる仕事は何かというと、例えば、今までバイタルサインは看護師が全部測って、記録したり電子カルテに入力したりしていましたよね。

でも今の時代、測定それ自体は素人だってやりますよね。

ですからその値を看護補助者に入力してもらったとしても、その根拠を持って読むのは看護師が行うわけです。

前日の体温と比較して、その根拠を持って、前の日よりは少し高いと思ったら測り直せばいいだけの話です。

ですから、今バイタルを測るのも電子カルテに入力するのも看護補助者さんが行って、それを読み取るのは看護師、ということをしている病院も増えてきているようなので、そういうところも協働でできると思っています。

昔は、バルーンが入っている患者さんの尿の破棄も、看護師がやっていたはずです。

でも今それ全部、看護補助者さんがやっていますよね。

そこまで進化しているわけですから、少しずつ無資格者でもできることが増えていくのではないかなと思います。

又、当院には地域包括ケア病棟があります。

ここは看護師13対1の配置ですし、自宅へ戻られる準備をする病棟でもありますから、国家資格をもつ介護福祉士を配置しています。

ただ、中々病院へ介護福祉士は就職してくれませんので、現在は3名と少ないですが看護補助さんのリーダー的存在として日常生活援助を頑張ってくれています。

アメリカでもすでに取り入れていますが、日本では「なんでも看護師がやる」という歴史が長すぎて、部長のような発想になりづらい傾向にあると感じます。部長はナイチンゲールの影響を受けてそのような発想に至ったのでしょうか?

折笠:そうですね。私は病院の看護部長をしながら、埼玉県看護協会の活動にも関わらせて頂きました。

そこは日本看護協会と密につながっていますので、いろいろな方のお話を伺ったりする中で養われてきたのだろうと思います。

以前勤務していた病院は全国組織ですから、全国の看護部長さんと関わった影響もとても大きかったように思います。

横の繋がりが希薄な看護部長だったら、たぶんいろいろな発想は養われなかったかもしれませんが、全国組織の本部の看護室という部署があって、そこの室長さんが新しい発想をされる方で、その方の影響が一番大きかったと思います。

また、埼玉県看護協会の時に、日本看護協会の前会長の坂本すがさんのお話を聞いたりといった、たくさんの方との関わりが今の私を作って頂いたと思っています。

管理職であっても、病院の中の情報だけではなくて、外の情報や視野の違う人たちとの接点というのも重要になってくるということでしょうか。

折笠:そうですね、そこが一番ポイントだと思います。

当院は地方独立行政法人ですから、外との接触は少ないんですけれども、幸いなことに前の病院での勤務が長かったので、前の看護部長さんとのお付き合いがそのまま続いています。

他にも埼玉県看護協会の方々や、又栃木県看護協会の会長さんは、元の団体のところの看護部長さんだったので、そういうお付き合いをさせていただいている中で、大きく視野が広がるのだと思いますので、井の中の蛙であってほしくないなと思います。

一つ一つの独立行政法人とか、一つ一つの団体の看護部長さんで接点がないところは、ぜひ外に行っていろんな看護部長さんとの関わりを持って吸収してほしいと思います。

看護部長ご自身が外部の方との接点を持つことで、師長さんをはじめ他のスタッフにも「こうして行くんだよ」という背中を見せることができるのですね。

折笠:そうですね、だから私はそういう環境にあったことが恵まれていると思います。

でも地方独立行政法人ですとそういう機会が少ないので、道を開いてあげなければと思っています。

ですから、お付き合させていただいている方たちに講義に来ていただく機会を持つようにしています。

そういう方と接点を持つことによって、視野が広がると言いますか、本から学んでいることを「やっぱりそうなんだ」と納得できると思うんです。

そういう体験を繰り返していくことで、自分の蓄えになっていきます。

学んで言葉だけで言っていても人に伝わりません。

実践を通してこうなんだよと伝えていかないと、スタッフ達はついてこないと思うので、師長さんたちにもそういうことをしてくださいねとお願いしています。

すごいと思うのは、部長さん方は管理職になっても常に新しいことを取り入れられたり学ばれていたりして、強いエネルギーを感じるのですが、もともと勉強されることが好きだったのですか?

折笠:マネジメントの本をいろいろ読んでいて「学びを辞めたらツケは自分に回ってきますよ」という言葉に共感したので、管理職以前に、看護師を選んだ時から、一生勉強だと思っています。

医学は日々進んでいますよね。

看護師は生涯免許ですから、学びを辞めたら「寝たきり看護師」なんです。

そうならないためには、いろいろな学会に行ったり、本を読んだりして、勉強しないことには、患者さんから頼られる看護師にはなれないと思っています。

看護師になったら一生勉強だと思いなさいね、と学生に講義している時にも話しています。

管理職だったらなおのこと、それ以上に勉強しなければなりません。

看護師に「勉強だ」と言っているのですから、それ以上に勉強しなかったら、”なんちゃって管理職”になると思っているので、そのためにはまず自分が率先してやる必要があります。

「口だけ言っているけど、あの人やってないじゃない」と思われないようにしなければということが1つと、でもだからと言って義務的にやっているのではないので、楽しんで取り組んでいます。

かっこいいですね。

「寝たきり看護師」という言葉を初めて聞きました。

折笠:そうですか?経験10年以上の看護師で、勉強もしないお給料のためだけに働いている看護師を寝たきり看護師と言うそうですよ。

パイプオルガンと動物に癒される

 

勉強に仕事にお忙しい日々だと思いますが、勉強以外にも趣味がおありですか?

折笠:趣味はたくさんありますよ。

まず一つは上手か下手かは別として、パイプオルガンです。

パイプオルガン!それを趣味にお持ちの方に初めてお会いしました。

それはどのようなきっかけで始められたのですか?

折笠:パイプオルガンは、私がクリスチャンであるということが関係しています。

宇都宮の教会に月1回レッスンを受けに行っていて、何十年も続けています。

自宅には総ペダルの2段鍵盤のオルガンがあるのでそれを弾いて楽しんでいます。

あと、私「小山のムツゴロウ」と言われているんです。

動物がお好きということですか?

折笠:動物大好きです。特に犬猫。

自宅には2匹の犬がいます。

1匹は虐待されていた犬を保護しました。

その犬が今ターミナルで、立てなくなってオムツをしていて、体位交換と栄養チューブで生きているんです。

そうなんですか、夜も体交されて。

折笠:そうですね。2時間毎に水分と栄養剤をスポイトで注入しています。

肺がんがあって、小脳転移したので、今立てない状況なのと、仙骨部に褥瘡ができないように体位交換しないといけません。

なにか好きな歌手や音楽はありますか?

折笠:そうですね、バッハは好きですね。

賛美歌に直結するからかもしれませんが、そういう音楽は心を癒されます。

歌ではアメイジンググレイスが好きですね。

なぜかというと、前に飼っていた犬が17歳3か月で亡くなって、ペットセレモニーホールで埋葬する時にかかっていた曲だったんです。

あれから十数年たちますけれど、その時からずっと「この曲いいな」と思っています。

元をたどると、賛美歌だったんですよね。

家でも聴かれたりしているのですか?

折笠:そうですね。だいたいオルガンで弾いているものが賛美歌に関するものなので、そういうものを聴きます。

素敵ですね。

最後に新人ナースに向けて、メッセージをお願いします。

折笠:いつも新人看護師だけでなく当院看護師全てに、私からのメッセージ4つを伝えております。

1つ目は「人の痛みがわかる看護師であってほしい」ということ。

2つ目は「患者さんが自分の家族だったら、あなたはどう看護するかということを考えながら看護をしてほしい」ということ。

たとえば、忙しくてナースコールが鳴った時も、「また鳴っている」ではなくて、自分のおじいさん、おばあさんだったらすぐにとんでいくように、それを自分の患者さんにもしてほしいと思います。

3つ目は「アサーティブ」ということをお願いしています。

自己主張や権利を主張するのはよくわかる。けれども、まず相手の言うことも受け止めた上で、でも自分はこう考えますという言い方をしてもらえれば、人間関係うまくいくと思いますので、そこの3点をお願いしています。

それと4つ目は、新人看護師というよりも、今いる看護師さん達になんですけれども、「自分の後輩を優しく育ててください」ということ。

自分の後輩を優しく育てられないような看護師が、患者さんに心から寄り添う看護はできません。

患者さんには心から寄り添う看護を、そして新人看護師はしっかりと優しく育ててくださいね、というこの4つをお願いしています。

そしてわたしたち新小山市民病院の看護部は1年目の看護師が国家試験を合格して当院に入職してきても、最初から何でもできる看護師を求めてはいません。

知識や技術は後からでもついてきます。

でも、人の心の痛みのわからない人は、看護師になって急にそうなれるわけではないので、そこだけはしっかり理解して飛び込んできていただければ、私たちはきちんとした一人前の看護師に育てられる自信はあります。

どうぞ安心して飛び込んできてください。

シンカナース編集長インタビュー後記

折笠看護部長へのインタビューは、伺っている私の方がどんどん元気になるようなお話ばかりでした。

悩むより、まず実践、行動、断らないというとてもスッキリとした信念の元に決断されていらっしゃいます。

決断の一つ一つがとても「カッコいい!」と思わず声に出してしまったほど、気持ちが晴れるような内容でした。

信頼関係を大切にされており、院長との関係もオープンに我々にお話ししてくださり、共に病院や地域を作り上げていらっしゃるということが伝わってまりました。(院長とも一緒にお写真を撮らせていただきました)

看護が進むべき道、看護師の今後あるべき姿など、多くのご示唆をいただき、あっという間に時間が過ぎてしまいました。

折笠看護部長、今後も、看護の未来を明るく照らす情報配信をしていただけると嬉しいです。

この度は、本当にありがとうございました。

新小山市民病院の関連する記事はコチラから

No. 50 折笠清美様 (新小山市民病院) 前編「信頼があるからこそできた「断らない』というモットー」

病院概要

新小山市民病院