日本とオーストラリアの看護について⑥ 患者さん中心のその人らしさを大切にした看護

コラム

皆さんこんにちは。

今回は特に印象に残っている患者さんを中心に、看護観的なことから、オーストラリアのより実際の看護について少し紹介出来たらと思います。

 

Person-centred care; 患者さん中心のその人らしさを大切にした看護

オーストラリアで看護を勉強していて本当によく聞く言葉です。

特に私の在籍している大学は倫理的観点を大切にしていることもあり、患者さんの権利や倫理がとても大切にされています。

日本でも聞いたことがあるかもしれませんが、疾病に焦点を置くのではなく「疾病を患わっている一人の人」という観点で患者さんを捉え、患者さん自身の治療への思いや主体性を大切にした看護観です。

 

患者さん中心の看護と、治療に有効な関係の構築

そんなperson-centred care、実際の看護の現場でよく問題になるのが安全管理とのバランスの問題です。

例えば、高齢であったり認知症であったりで、転倒リスクの高い患者さんへの行動制限や身体拘束など。患者さんの思いを尊重しようとすると、多くの患者さんが嫌悪感を示したり拒絶し、なかなか難しい問題でもあります。

そこでこちらの医療現場でよく大切にされているのが「Therapeutic relationship(治療的関係)の構築」です。

患者さん自身を大切な医療チームの一員と捉え、目標設定など全ての医療行為に主体的に取り組んでもらえるように「治療にとても前向きで有効な患者ー医療者関係の構築」を目指した看護介入です。

この観点から患者さんの安全管理を考えると、看護師が一方的に看護問題を立案し、看護介入するのではなく、いかに患者さん自身の安全管理への知識や意識を高め、患者さん自ら安全管理に主体的に取り組んでもらえるようにするかがとても大切になります。

例えば、転倒リスクの高い患者さんに、看護師の視点から捉えた看護介入として身体拘束や行動制限を押し付けるのではなく、実施の必要性、メリットやデメリット、期間の目安などをきちんと説明し、その上で、患者さんと共に患者さんの思いや希望をできるだけ尊重した目標設定を行っていきます。

その結果、患者さんは治療をより前向きに捉え、また目標達成への希望や意欲も主体的に持てるようになります。

 

実際の私の体験でも、そんな患者さん中心の治療的関係構築の重要性を実感する事例がありましたので、紹介させて頂きます。

高齢で軽度の認知症もあり、なかなかベッド上安静が守られていなかった患者さん(転倒による骨折で入院し、院内でも一度転倒あり)に、まずはベッド上安静への思いを聞いてみたところ、彼は私たち医療者によって寝たきりにさせられそうになっていると感じており、また、自力歩行への意欲がとても高く、彼の行動はその意欲の表れであることが分かりました。しかし、まずはベッド上安静による安全の確保と怪我の回復が必要であったため、その必要性と、本人の希望をできるだけ取り入れた自力歩行に向けた目標設定を患者さんと話し合ったところ、今まで頻繁にベッドから起き上がろうとしていた行為が収まり、理学療法など治療への積極的な取り組みが見られるようになりました。転倒の危険がとても高いことから自力歩行は難しいとも考えられていましたが、最終的にはほぼ自力でトイレに行くなどの行動が可能になりました。この患者さんが治療にとても協力的で前向きになったのは、まさに「治療の目的や目標を患者さんと共に共有」することができたからではないかと思っています。いかに患者さんの主体的な思いを理解し、サポートできるかが大切であるかを学んだ事例でした。この患者さんが最後に涙ながらに”Never give up(決してあきらめないよ!).”と私に言った言葉はきっとずっと忘れないと思います。

 

患者さん中心の医療・看護による看護満足度の向上

医療の現場においてありがちなのが、医療者主体の医療で、患者さんやその家族の思いはしばしば忘れられがちになります。少し視点を変えて患者さんの視点から接することで、治療により有効で前向きな医療者―患者関係を構築することができます。また、これらの概念は、治療の経過や目標設定に主体的に参加できるといった面から、患者さんやその家族の医療に対する満足度を増すだけでなく、看護師にとってもより効果的な、質の高い看護の実践と満足感の向上にもつながるのではないかと感じています。