No.34 青井久江様(久里浜医療センター)後編「患者さん自身が自律できる看護を提供する」

No.34 青井久江様(久里浜医療センター)後編「患者さん自身が自律できる看護を提供する」

  • 2017年8月9日
  • インタビュー
No.34 青井久江様(久里浜医療センター)後編「患者さん自身が自律できる看護を提供する」
No.34 青井久江様(久里浜医療センター)後編「患者さん自身が自律できる看護を提供する」

前編に引き続き、久里浜医療センターの青井久江看護部長へのインタビューをお送りします。

 

世界をいくつか持ってみる

A:看護師は仕事と私生活を両立させていくのは大変なイメージがありますがいかがですか。

 

青井:私は個人的には、「生きる」世界をいくつか持っている方が良いと思います。

例えば仕事一筋で全てが仕事中心に生きてきたとしたら、それが期待通りの結果を生まなければ自分の人生全てが否定されてしまう気がします。

でもいろいろな「生きる」世界を持っていたら、1つダメだったとしても切り替えができます。

ある分野で極められない状況があれば、少し角度を変えてキャリアアップしてみようかとか、視野も広く持てると思います。

そういう意味で、仕事だけでなく私生活も充実させることは良いことだと思います。

 

A:管理者として働く上で活きてきたものはありましたか。

 

青井:看護管理者も対象は「人」ですからね。

自分の生きてきた世界を振り返ることで患者さんや職員を理解することができると思うのです。

だから自分の「生きる」世界が多いほど人への理解の幅広がると思います。

例えば子どもを産み育てた経験は、同じ状況にあるスタッフに対して、いつどんなサポートが必要なのか、何が大変なのかを考えるために活かせた経験として重要だったと思います。

 

 

アルコール依存症治療のパイオニア

A:こちらの病院の特徴を教えていただけますか。

 

青井:精神科にもいろいろ分野がありますが、当院は依存症、特にアルコール依存症の治療が有名です。

というのも、アルコール依存から離脱するためのプログラムを開発した先駆け的な存在だからです。

そして今は、アルコール依存だけでなくそのプログラムを元にして、ギャンブルやインターネット依存から抜けられない方々に対する支援の枠組みを作ろうとしています。

勿論、依存症だけでなく統合失調症やうつ病、パニック障害などに対する診療も行なっています。

 

A:アルコール依存症に対する看護師の役割はどのようなものですか。

 

青井:基本的には当院の看護理念でもありますが“患者さんの心に寄り添い、患者さん自身が自律できる看護”を提供することです。

 

依存症は否認の病気です。

「ストレスや悩みがあったから飲んだだけ」「やめようと思えばいつでもやめられる」など自分の問題に正面から向き合うことが辛くなり、それで更にアルコールから抜けられなくなり、現実も見えなくなります。

自分で問題と向き合うことをしないと依存からは抜け出せないのですが、それが難しい。

そこで治療法として同じ病気の仲間や医療スタッフと一緒に行動を変えるためのプログラムを実施します。

具体的には、アルコール依存症の場合は認知行動療法と呼ばれるプログラムを行います。

依存症は否認の病気なので、そういう自分を「認知する」ために普段の自分を細かく振り返っていきます。

そして十分自分の飲酒傾向が理解できたら飲酒欲求をいかにコントロールするかを学習します。

それから健康な生活について学ぶためにストレス対処方法や退院後の生活設計を行って退院するのです。

 

A:自律のためのサポートが看護の重要な役割というのは新鮮ですね。

 

青井:統合失調症や双極性障害といった病気にもともと持って生まれた器質的な要因もありますが、アルコール依存症はそうではなく、誰にでもかかる可能性のある病気です。

患者さんはもともと一般社会の中で普通に暮らしてこられた方々なので生活の再調整ということが治療になります。

普通に朝起きて食事を3食とって活動して、夜決められた時間に眠るという当たり前の生活を取り戻してもらわなければなりません。

でもそれを実践するのは患者さん自身であって強制的に実施させられているうちは完治しないのです。

自ら行動する、行動を変えていくこと、これは意外と難しいようです。

患者さん1人では弱いので他の仲間や職員のサポートが必要なのです。

 

 

A: 退院後にもサポートが必要な患者さんに対する取り組みなどはありますか。

 

青井:今年から地域医療連携室を立ち上げました。

病棟の看護師には必要があれば患者さんの退院が決まったら退院前訪問として自宅に患者さんが帰る前に退院準備を支援する目的で、患者さんの家を訪問してもらいます。

退院後の環境を確認することは大切ですので、もう業務の一環にしています。

退院した後にもサポートが必要な場合は、訪問看護を導入して、継続した見守りを行っています。

当院の訪問看護は外来と病棟の看護師が共同で行なっています。

患者さんの入院中の状態を知っている看護師が自宅に訪問してくれることで退院後も安心感を持てたり、継続して看てもらえることで頑張ろうと思ってくれたりすることを期待しています。

病院の中でやっていけることは限られていますし、病院の中だけでは問題を解決はできませんので社会生活のサポート訪問看護は重要ですね。

 

 

A:病院内だけでなく、退院した後も看護師が継続して関わりができるのは特徴的ですね。

 

青井:一人の患者さんを継続してずっと看ていけるのは興味深いですね。

 

A:患者さんとの向き合い方は新しい看護師にどのように指導されていますか?

 

青井:やはり机上で「人」の理解をしてもらうのは難しいと思いますので、患者さんとの関わりの中で学習してもらいたいです。

当院には精神科経験の長い看護師やアルコール依存症プログラムを専門に研究している看護師が各病棟に配置されています。

そういう人たちが患者さんとの関わり方については実践的に指導しているのと、患者カンファレンスで多職種とともに対応を検討しています。

 

A:ナースとして経験の長い方が多くいらっしゃるのですか?

 

青井:平均在職年数は9~10年です。

以前は精神科というと中途採用者や他の病院の経験者が多いイメージでしたが、3、4年前からは新卒の方の採用も増えています。

特にここ2年は採用者の8割以上が新卒の看護師です。

当院は依存症の専門機関ということもあってか看護大学の卒業生が多くいます。

 

A:教育はどのような形で行われていますか。

 

青井:基礎教育に関しては国立病院機構で共通した「看護職員教育能力開発プログラム」といったものがあります。

専門分野に関しては精神科認定看護師の指導をもとに主に臨床で経験して身につけて貰うようになっています。

 

 

 

A:こちらの病院に看護補助者さんはいらっしゃいますか?

 

青井:当院では清掃委託業者を一部の部署にしか配置していないので、各病棟に配置した看護補助者さん4〜5名に、主にシーツ交換や病棟内清掃などの環境整備をお願いしています。

 

A:看護補助者と看護師の業務連携はどのようにされていますか。

 

青井:そうですね。

当院では割とシンプルな仕事をしていただいていて、看護師と看護補助者の業務分担ははっきりしていると思います。

どこまで仕事を移譲するかは今後も考えていく必要はあると思います。

 

A:患者さんとの関わりに不安を持たれる方も多いでしょうから、はっきりと仕事が分かれていると、きっと看護補助者さんとしても働きやすいですよね。

 

青井: 患者さんと積極的に関わりたい方にとっては物足りないかもしれませんが、精神科でも単純な業務の仕事なら働きたいと、採用を希望される方も多いですね。

 

看護部長からのメッセージ

 

青井:国立病院機構久里浜医療センターは、アルコール依存症の専門治療をメインに展開している精神科の病院です。

依存症は、心の奥底に抱えている悩みや苦しみが背景にある場合が多いため、人を理解することがとても重要になって来ます。

人に対して興味があり、人の事をもっと知りたい、関わりたいと思う方にとっては大変興味深い分野だと思います。

ご興味のある方は是非一度、当院へ見学にいらしてください。

 

シンカナース編集長インタビュー後記

眼下に海が広がる美しい景観の病院でした。

青井部長から伺った「今生きているこの時間をどう大事にしていくか」というお話は、看護を実践された方だからこそのお言葉だと感じました。

患者さんの疾患によって、看護は「死」を目の当たりにする職業です。

その時に、何を感じ、何を看るか?

ここで、看護師としての進む道が変わる重要な分岐点になる。

青井部長のように、現実を直視し、自らを進化させ前進することができれば、看護師として、たとえどの科で勤務したとしても看護を愛していけるのだと教えていただいたと感じております。

インタビューでは、部長がよく聞かれる音楽などのお話も教えていただき、真剣な面だけではなく、穏やかでユニークな部分もお見せいただきました。

青井部長、貴重なお話をお聞かせいただき本当にありがとうございました。

 

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施設概要

独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター

中 友美
A-LINE株式会社 代表取締役社長 シンカナース編集長
北区医師会看護高等専修学校 東京都立公衆衛生看護専門学校 東洋大学文学部国文学科 明治大学大学院グローバルビジネス研究科 経営管理修士(MBA) 日本大学大学院総合社会情報研究科 博士後期課程在学中 ニュージーランド留学 A-LINE株式会社/代表取締役社長 東京医科歯科大学非常勤講師 著書『わたしの仕事シリーズ2 看護師』新水社