No.30 井本寛子様(日本赤十字社医療センター)後編「看護管理の世界を変えたい」

No.30 井本寛子様(日本赤十字社医療センター)後編「看護管理の世界を変えたい」

  • 2017年8月4日
  • インタビュー
No.30 井本寛子様(日本赤十字社医療センター)後編「看護管理の世界を変えたい」
No.30 井本寛子様(日本赤十字社医療センター)後編「看護管理の世界を変えたい」

前編に引き続き、日本赤十字社医療センターの井本寛子看護副部長へのインタビューをお送りいたします。

看護管理の世界を変えたい!

 

 

看護管理の道へ誰が指南するかというのはあるかもしれませんね。

 

井本:そうですね。

 

ただ、看護管理をやるようになって、当時の看護管理の枠だと狭いように思ったんです。

 

「当時は」ですよ。

 

これは医療経営をやった方が強い武器になるんじゃないかと思って、大学院の修士課程で学びました。

 

確かに医療の世界がよくわかりましたし、制度やお金の話等よく学んで、自分の知識の蓄えを増やして臨床実践に戻ったんですけど、本当に追求すべき領域はこれなのかなと思うようになりました。

 

その後認定看護管理者課程サードレベルに行く機会があったのですが、10数年前の知識とあまり変わらないことをやっていて、それがすごく衝撃的でした。

 

なぜこんなに時代遅れなことをやっているのかという問いから、看護の博士課程に進んで、看護をより見つめる苦しさは何なのかと自分で体験しています。

 

この学びを「看護管理の世界を変える」というアウトプットとして出さないとこの先私を支えるものがなくなると思っているんです。

 

やはりその分野の方々がどう次の世代を作っていくかによって看護が大きく変化できるということですよね。

 

井本:看護師がいることの重要性について、国民にも病院にももうちょっと知ってもらわないと、ずっと回転ばかりかかっていて看護師の層が厚くなっていかないんですね。

 

厚くなっていく人の一部は生活のための仕事になっていて、一部のリーダーシップをとる人たちの中に少なくとも看護がよりよくなるためにはどうかって考えている人たちはそんなに多くない現状があります。

 

でもこれを変えないと日本の看護はよくできない、このままだと衰退してしまうのではないかという懸念があります。

 

でもひとつのキラリとしたトンネルの出口というのは、訪問看護ステーションをはじめとした地域の看護師たちの活躍ですよね。

 

病院では専門看護師の活躍に期待したいですね。

 

彼女たちは部門横断的に高い持久力をもって患者さんに対応するので、やっぱりそこは重要だなと思っているんです。

 

少なくとも90年代から様々な取り組みがされたことで、日本の看護が発展してきたことは間違いないので、ここから衰退しないように私たちの世代が繋げていければいいなと思いますね。

 

そういう想いのある方には人が集まってきますし、きっと看護も発展していくんだろうなと思うとすごく嬉しいです。

 

 

仕事以外で楽しいと思う部分はどんなところでしょうか?

 

井本:ゴルフを楽しんでいます。

 

以前はテニスやスキューバダイビングなどやっていましたが、今はゴルフだけですね。

 

ゴルフをされている時にも看護と共通している所は何だろう、などと考えながらラウンドされますか?

 

それとも仕事のことを一切忘れてゴルフに打ち込みますか?

 

井本:ゴルフに行く時は一切看護のことを思い出さないようにしていますね。

 

意識してそうされているんですね。

 

井本:そうですね。

 

他にはリラクゼーションが好きなので、エステに行くことが楽しみですね。

 

でも、力を抜いていいですよって言われて私は抜いているつもりでも「井本さんすごく力入ってますよ」と言われたりだとかしていて・・・。

 

でも患者さんって普段こうなんだろうなって考えますね。

 

その趣味の領域は看護と近づけて考えるようにしています。

 

違う仕事だけれども、話しかけるタイミングと話しかけないタイミングをどうやって若い子達に教えているんだろうとか、結構観察してしまってその結果、全然リラクゼーションできていなかったりするんですけどね(笑)。

 

台風師長現わる?!

 

井本:副部長になってからですね、こうして休日を楽しむことができるようになったのは。

 

以前はけっこうワーカーホリックで。

 

休日でもずーっと勤務表を見ながら気にしていて、今日はあの子が勤務しててあの患者さんにこんな問題起こっているから大丈夫かな、などと考えていました。

 

夜になって病棟からの着信がなかったから大丈夫だったんだなって。

 

そういう生活をしていましたから、こんな私を見ていたら誰も管理者になりたくないだろうな、と思っていました。

 

そういう意味では悪いモデルをやってきたなと思いますね。

 

今、私の部下だった人たちの多くが管理者になったんですね。

 

彼女たちは当時のことを「台風のようだった」と言っていましたよ。

 

そこもきちんと、スタッフは観察しているんですよね。

 

井本さんについていこうとしている人たちは、井本さんのことを信頼できていたということなのでしょうね。

 

井本:そうですね。安心感があったみたいですね。

 

先日彼女たちから「”井本さんあるある話”がいくつもあるんですよ」って初めて聞いたんです。

 

【知識を充填しておかないと質問されて答えられないと怒られる】とか、【不意に気を抜いていると後ろに立っている】といった「あるある」があるみたいですよ(笑)。

 

どちらかというと、よくある権威的なリーダーだったんだなと思います。

 

看護管理に専念するようになって、自分の価値観で入ってしまったらそこで齟齬がおきてしまう、ということを気をつけています。

 

副部長になった時は、私が発信したことと相手が受け取ったことが異なることがたびたびあって。

 

日常的に伴走しているとそういうことが起こりにくいんですけど、単発的なやりとりだと理解できない状況が起こってしまうんです。

 

今はコミュニケーションを大切にして、そういうことが起こらないよう心がけています。

 

単発的な関わりというのはより管理者になると起こってくる部分ではありますよね。そんなに日々一緒にいられるわけではありませんし。

 

井本:的確に内容を言える人ばかりではないわけです。

 

管理者の特性を加味しながらつめていく作業と、スピーディーに対応して意思決定することを求められています。

 

私は意思決定を支援する側なので、そこで間違ってしまったら大変ですからね。

 

私がやっていることが世でよく行われている看護管理じゃないかと思うんですよ。

 

経営のことも人材育成も看護の歴史も、たくさん看護管理者が勉強しなきゃいけないことはあるけれど、まず臨床で重要なのは問題解決じゃないかなと。

 

スタッフにしてみれば、相談して適切なアドバイスがもらえていち早く解決できれば次のことにかかれるわけですから、そこを支援したりファシリテーションできることが必要ではないかと思っています。

 

 

 

看護管理者が「へこたれない」ために

 

そういった流れが全国的に広がって、看護管理者になる方たちの疲弊みたいなものが、次の世代へつながっている。看護管理を変えていくというのはまさにそういう部分なんですね。

 

井本:「なぜ看護管理者がへこたれるのだろう」という問いなんですよ。

 

それはもしかして何を目指せばいいかわからない、何を備えればいいかわからない、何を備えればという中に論理的思考だったり問題解決法だったり、リフレクティブになって自分のことをみつめることであったり。

 

看護管理ってキツイ立場におかれることが多いので、反省なんかしている場合じゃなくて私の言うことを聞いていればいいのよ、という場面が多くあります。

 

しかしそれがかえって状況を悪くしていることが多いなと気づきましたね。

 

気づかれたことをさらに発信するというところが、看護を次のステージに展開していくことなんでしょうね。

 

井本:今博士課程で学んでいて、海外の文献をたくさん読むことが多いんですけど、日本の看護師業界は「はやりものにくらいつく感」があるのかなと感じています。

 

もっと大切にしてきた歴史を大切に振り返りながら歩むことがまず1番必要じゃないかと思っているんですね。

 

そのためには、看護師自身が意思決定できる力を獲得することが、看護にとっても助産にとっても重要だなと考えています。

 

それを看護管理者が意識しているかというと、必ずしもそうではない。

 

問題解決の研修をすると、看護管理者が前後関係を的確にとらえて問題を解決していない、というのがよくわかります。

 

「こうに違いない」という思い込みが入っていたり、スタッフに「こうしたらいいよ」と答えを出していない?と。

 

まず気付いてもらうというところから入るんですね。

 

井本:それは自分の経験に基づいた自分の価値観によるものであってそれを押し付けているだけに過ぎません。

 

問題解決に向けた分析がすごく不得意なので、逆にそこがクリアできれば解決策はものすごく得意ということになります。

 

そこで重要になるのがきちんと対話能力が発揮できるかということなんです。

 

言いたい時にちゃんと聞いてくれる相手がいるか。

 

そして上司がそうであるかはすごく重要な因子です。

 

昔はその役割は同僚の誰かが担っていて、師長に求められるものではなかったと思うんですよ。

 

だからキツイですよね、師長さんは。

 

患者対応、スタッフ対応はもちろん、医療もある程度把握していないといけませんし、なおかつ看護の基盤がまわっているか確認しなければならないわけです。

 

求められる能力がどんどん高くなっていっているんですね。

 

 

 

ピアサポートで師長を支えて看護の活性化をはかる

 

 

井本:そうですね。当センターでは今年から師長をサポートする「OSナース」という業務支援ナース制度を始めました。

 

上司・部下の関係ではなくピアサポートで、問題解決の速度を早めることが目的です。

 

部下の建前や見栄が邪魔して対話できなくなってしまうことがないので、解決のスピードが違いますよ。

 

生き生きした師長さんたちが増えていく、元気な師長さんたちが増えていくということがより看護を活性化させていくことにつながるんですね。

 

井本:ほんとにそうです!絶対にそうです。

 

自分の今のスタンスがベストだと思わないこと、それが師長が取得すべき資質の1つだと思うんです。

 

集団においてカメレオンのように色を変えられるような能力を身につけさせること。

 

「前はうまくできたのに」と嘆く師長がいますが、以前いた部署とは副師長の資質も集団としての特性も違うわけです。

 

前は対話的でなくてもやってこられたかもしれないけれど、今は対話が必要かもしれない。

 

だから「自分が変わればいいのよ」と伝えてサポートしています。

 

そういう管理に入っていきたいというスタッフが増えていくんじゃないかなと思いますね。

 

井本:そうですね。抄読会を開催するとすごく人が集まりますね。

 

私としては看護管理をやっていて苦しいと思ったことはなくて、こんなに看護が発展するための旗振りができるなんて楽しいに決まっているといつも言っているんです。

 

しかし一方でダブルワークのような仕事ぶりを見せてしまうと「井本さんと私たちは違います」と言われちゃうんですね。

 

でも外の仕事をしてもらわないと、当センターの強みと弱みを理解できなないので、わからなければ改善することも強化することもできないと思っているんです。

 

いつも部長とそんな話をしています。

 

看護の未来を見させていただいたようなお話です。

 

看護はどんなに良いことをしていると言っても、このままでいいということはないですから、管理職さえどんどん変わっていけば全体的なベースは良くなっていくはずですね。

 

井本: ただ、一人一人に入っている魂のような部分がもう少し確固たるものになっていく必要があると思います。

 

せっかくあんな苦しい学生時代を過ごして国家資格を取ったのに、たった数年で辞めてしまうのは惜しいですからね。

 

病院にとどまらず、地域や自宅など「どんな形でもできる仕事だから絶対に辞めてはいけません」と助産師学生には話しています。

 

 

あなたのままで、目の前の一歩を全力で努めること

 

 

新人看護師に期待することについてお聞かせください。

 

井本:「あなたのままでいい」ということですね。

 

基礎教育の先生は「まず3年」と教えているかもしれませんが、看護実践の基盤としてのスキルが身につく時期と、資質が身につく時期。

 

スキルと資質で5年間かかるんですね。

 

この2つの資質がないことには、何か問題を抱えたらやめてしまうとか、教育する側に立つ経験をしていないので、いつもモラトリアム的な思考回路になって転々とするナースがいっぱいいるんですよ。

 

だから私は3年〜4年の基礎教育を受けて国家試験を通ってきたのだから、あなたが「そこにいる」ということで対象者のためになる人材なんだと思います。

 

だから、時間はかかるかもしれないけれど、あなたの持っているものを出してくれることを期待したいですね。

 

そのためには辞めないことが非常に重要です。

 

続けていかないと乗り越えていくタイミングも得られないですし、乗り越えたあとの楽しさとか安堵感といった次につながらないですもんね。

 

井本:就職説明会に行くと「教育やっていますか?」とよく聞かれますが、この時代教育をやっていない病院の看護部はありません。

 

「自分がやりたい看護があるかを探してください」と伝えています。

 

何人辞めるとかそういうことではなくて、やりたい看護ができる体制があるか。

 

体制というのは新人教育体制だけではなく、看護がある程度できるようになってからのキャリアアップ支援体制のことです。

 

今や、昔みたいに自分でがんばって考えて育っていく時代ではありません。

 

今の新人看護師たちはけっこう力があるなと思っているので、自分の存在を見失わずに、自分のあるがままを大切にして、辞めなければあなたの看護ができるようになるはずです。

 

うれしいお言葉です。

 

それを自分たちもなんとなくわかっていながら、その言葉を管理者の方から聞くことがないので、はっきりと辞めないということを先に言うことの大切さを感じますね。

 

まず入ったら5年辞めないというのは絶対次のキャリアにつながりますからね。

 

シンカナース編集長インタビュー後記

井本看護副部長の世界観には、大変感銘を受けました。

看護師の可能性、看護管理の未来像を明確に描かれており、実行するために必要な行動も実際に開始されていらっしゃる。

また、部長との出会いについてもお話いただきましたが、信頼関係が構築されており、部長の言葉を受け止め、ポジティブな対応をされていらっしゃる。

このことからも、出会いや、上司の言葉を活かしつつ、ご自身が体験されたことをポジティブに変換される能力がとても高いということを感じました。

お話全てが、正確、的確、簡潔で、とても心地よいスポーツをさせていただいたような気持ちでインタビュー後、病院を後にしました。

井本看護副部長、この度は未来への希望を沢山感じさせていただけるお話、本当にありがとうございました!

 

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施設概要

日本赤十字社医療センター

 

中 友美
A-LINE株式会社 代表取締役社長 シンカナース編集長
北区医師会看護高等専修学校 東京都立公衆衛生看護専門学校 東洋大学文学部国文学科 明治大学大学院グローバルビジネス研究科 経営管理修士(MBA) 日本大学大学院総合社会情報研究科 博士後期課程在学中 ニュージーランド留学 A-LINE株式会社/代表取締役社長 東京医科歯科大学非常勤講師 著書『わたしの仕事シリーズ2 看護師』新水社