No.29 藤原佐和子様(済生会神奈川県病院)後編「自分のしたい看護じゃなくて、患者さんとする看護」

No.29 藤原佐和子様(済生会神奈川県病院)後編「自分のしたい看護じゃなくて、患者さんとする看護」

  • 2017年8月2日
  • インタビュー
No.29 藤原佐和子様(済生会神奈川県病院)後編「自分のしたい看護じゃなくて、患者さんとする看護」
No.29 藤原佐和子様(済生会神奈川県病院)後編「自分のしたい看護じゃなくて、患者さんとする看護」

前編に引き続き、済生会神奈川県病院の藤原佐和子看護部長へのインタビューをお送りいたします。

 

教育の経験を生かした教育システム

 

看護部の新人さんへの支援システムがあるとホームページにあったのですが、具体的に教えていただけますか?

 

藤原:当院は新人の数が多くないので、教育システムもバックグラウンドによってある程度は個別に対応できるものになっています。
例えば同じ「新人さん」でも、社会人経験者もたくさんいますから個々人の持つスキルも違います。

教育の内容的に関して言えば、受け持ち患者さんを選定するときにはコミュニケーションが取れて状況が安定している患者さんを選びます。
臨床に来ると急変などいろいろなことがありますが、そこでパニックになっても乗り越えられる人もいるし、そこで止まってしまう人もいる。

そのスキルに合わせた集団教育もします。定期的なフォローアップ、プリセプターだけでなくサポーター制度もあります。
そして、その中だけでは対応できなければ副部長が関わるというように、いろいろな人が関わるようにしてあります。

配属後1カ月後には私の方にある程度、皆がどのように働いているのか情報が上がってくるようになっています。
教える側は自分の経験値で人を育てますが、私たちが育ったときと今の状況は違うので師長たちと情報共有をすることが大切です。
ベテランの方たちは、自分で学んでいく環境の中で過ごして来られましたが、教育をかじった者としては、今の教育はそうではないということを情報提供していくという任務があります。

また、スキルがない人に「できなさい」というのは無理だよねということは言います。

看護助手はオマケじゃない。

 

助手さんはこちらにもいらっしゃいますか?

 

藤原:済生会では看護補助者活用のプロジェクトを5年続けています。済生会独自のプログラムをつくり研修も実施しています。
先日看護助手さんたちある研修会を受けてもらったんです。糖尿病の認定看護師に爪切りの研修会で、糖尿病の末梢神経障害に関する機序的なことから自分たちの爪を切る実習まで含みます。

全部で4回あるのですが、この研修会に出席した人には修了証を与えて、看護師から依頼があったら爪切りができるというシステムもつくってみました。
というのも、雇用形態として看護助手さんは圧倒的に非常勤が多いですから、育成のためにキャリアラダーを作っても、そもそもそのはしごが上がれるのかという問題があると思うんです。
日本看護協会とか厚労省は看護の周辺業務といっていますが、何か目標とそれに対するモチベーションを持って働いてもらうには、「あなたたちはオマケじゃない」、「周辺業務をやる一つのチームの一員」として意識を持ってもらうことが大切だと思います。
そのためには看護助手も看護師と同じように、組織化をする、発言権を持たせる、「あなたたちのやってくれた仕事はこういうことよ」と成果を可視化するというところが重要ではないでしょうか。

 

今の社会情勢を考えると、2025年頃の就労人口の減少に向けて、病院としてどのように人材を育成・活用するのかというのはすごく問われています。
介護福祉士についても、看護と同じように教育内容が専門学校から大学までで大きく異なります。

実務経験を積んで来られる方もいらっしゃいます。

その違いがある中でどうやって彼らに活躍してもらうか。

国家資格を持っている人たちなので、持っていない人との差別化を図るとするとそれはどの点なのか、ということを考えています。介護施設でできても病院ではできないこともたくさんありますから。

 

 

再認識した「理念」の重要性

藤原:若い頃は理念とか基本方針とかよくわかっていないところがありましたが、今は非常にそれが重要だということを感じます。

その病院、組織で働くことの意義ですね。最近よく「済生会の組織人」「病院の組織人」ということを考えています。

例えばお給料だけが条件ならば、いい条件があればすぐ移りますよね。

給料が低くても、留まってくれているとしたらやはり何か面白いと思ってくれるということだと思いますし、つらくても続けていけるのは理想とか大義名分が個人に合致した部分があればこそだと思うので、理念というのは非常に大きいものだと感じます。

だからそれをその人なりに落とし込んで貰って、皆に一緒の方向を向いてもらう事が重要だと思います。
そもそも済生会は、医療によって生活困窮者を救済することを目的に創設されていていますが、「この理念をあなたならどうやって?」と。

 

シンカナースでも、価値観の共有や共感できるかという点が、ナースが病院を選ぶ上で重要だと感じています。ですので、ナース自身が直接病院を選ぶ必要があると思っています。

 

藤原:人材広告会社のウェブサイトなどでは「お休み何日」「給料いくら」という情報に触れる機会が多いですし、大きく見えてしまうので、それが病院を選ぶ基準になりかねない。
でも実際に長く勤めていくには、ベースの価値観が合っていることが必要ですよね。

価値観をきちんと理解して入職すれば、多少のつらいことや乗り越えなきゃいけないことがあったとしても、そこはクリアしていきやすいはずです。反対に、価値観が合っていない、いずれ本人にとっても病院にとっても不幸な結果になると思います。
藤原:看護部長になったときに色々私の考えを話すと「何を考えているかわからない」とよく言われました。こんなに私自分の考えを熱く語っているのに「何でわかってくれないんだろう」と思ったものです。
でも、「概念論の理念はわかるけど、じゃあそれはどういうことなの?」と言われたとき、自分の価値観や思いを交えながら、その理念が意味することを対峙している人個人に対して

「こういう部署にしてもらいたい」

「こういう看護師になってもらいたい」

ということを伝えてきたことで変わってきました。

師長に求めること、主任に求めること、スタッフに求めること、看護助手さんに求めることはそれぞれ違いますから。
組織というものは、一人一人別の方向を見ている「個」と対話を重ね、同じ方向を向いている「私対私」の関係をいくつも作り、それが合わさることで初めて成り立つのだと思います。

 

部長も語る時代というか、引き付けるというか。その部長の理念に共感できるという人が周りに集まってくる時代になってきたということでしょうか?

 

藤原:そもそも、その人の持っている力がほしいから雇用しているわけですから、私はほしいなと思ったら必死になってその人に語りかけるんです。
ご家庭の都合とかでどうしてもグラグラしているようなときに、ストレートに「私はあなたがほしいからいてちょうだい、私を助けてちょうだい」「私はあなたが必要だと思うから、あなたにいてもらいたい。

私に何をしてもらいたい?何をしてほしい?」って。
あとは、大学院でマネジメントを学んだ後に、認定看護管理者教育課程のサードレベル研修も受けました。

時間がたつにつれて、それらの知識を扱うのがやっとという状況から、自分のツールとして使いこなせるようになったというのも影響しているのではないでしょうか。

 

ずっと学び続ける原動力はどこから来ているのでしょうか?

 

藤原:患者さんにいい看護を提供することと、できるだけ働きやすい環境をつくること。
この2点が私の看護部長としての役割、立ち返るべき原点です。そこを主軸にして考えると、自然と。

 

趣味は勉強

 

部長がお仕事以外でご趣味や取り組まれていることはありますか?

 

藤原:残念ながら今はほとんど。いろいろと探そうと思ったのですが、開き直って趣味は勉強ということにしています。
自分の関心があることですから。

世界のいろいろな人たちが書いた本を読んで「こういうことか」と思うのが一番面白いんです。知ることが好きなんです。

 

学びにおいても過去に大学院に行かれたというのも、自然なことに思えますね。
看護師自身がこれから進化していく必要性についてはどうお考えですか。

 

藤原:マネジメントが重要だと思います。
マネージャーにはいろいろなスキルが要ります。

そのベースにあるものは看護学なので、看護学を使った上でのコミュニケーションであるとか、看護学を使った上での調整とか、そこが一番核になります。
看護師は一番長く患者さんの側にいるのでわかることもありますが、マネジメントの視点から見るとそこで入り込んではいけないと思うんです。感情移入はせずにきちっとその人を見つめて、「自分のしたい看護じゃなくて、患者さんとする看護」をする。
患者さんは自分なりの考えを持っている、人生に対しての考え方がある。看護師ができることというのはそれほど大きなことではありません。
その人らしい人生をつくっていくのは私たちではないので、そのお手伝いをするという意識を持っていくことが必要ではないでしょうか。
主観的になりすぎないようにするには、中に入り込みすぎず、自分を見つめるということも必要です。

自分を客観的に見つめ直す。
でも自分で見つめ直しても主観的な状況しかわからないので、時には他の人に尋ねて見るのも重要だと思います
私自身、看護って主観でしかないじゃないと悩んでいたことがありますが、あるときに言われたんです。

「自分一人がこれを見てこうだと言ったらそれは主観だけど、10人の人が見てこうだと言ったらそれは客観だよね」と。

 

今後の医療、看護の在り方

 

今は看護が大きく変わっていく時期だと感じています。

補助者のこともそうですし、これから2020年2025年に向けて、高齢者数だけでなく人口の割合も変わります。
どうやって医療を維持していくのかを考えると、看護はどのように変化していくべきでしょうか。

 

藤原:30年くらい前から見ると考え方や生き方、医療の考え方、すべてが変わってきています。

医療情報もどんどん開放されていますし、病気との付き合い方、生死感も異なります。老老介護など社会的な問題も出てきていますね。
そうすると、やはり診療機能の形態の中での看護の役割とは何なのかを考えていかないといけないと思います。

正解はありません。
地域もそれぞれで特徴がありますが、求められているもの、その中で対応できる部分は何なのか。

全てに対応できなくても何ならできるか、ということを考えて、できる中でやっていくしかないのかと思います。
その為には、いろいろな方とお話をしたりしていくことが重要です。その中からいろいろな情報をいただけます。

データを持っていても情報にならないというところがありますよね。

だから情報にするにはどうしたらいいかというところもやはり考えないといけないと思います。

 

シンカナース編集長インタビュー後記

藤原看護部長のお言葉で印象的だったのは

「患者さんにいい看護を提供することと、できるだけ働きやすい環境をつくること」

ということでした。

看護の管理者だからこその発想なのかもしれませんが、部長のもとで勤務されてらっしゃるスタッフの方は幸せだなと心から思える深みのあるお言葉でした。

また、部長自ら、常に学び続け、進化し続けることを躊躇せず行われているということも、上司としての理想的な姿の一つではないかと感じております。

趣味が勉強というお言葉にも、納得できたのは、ご自身の役割も看護も、楽しみながら興味を深めていらっしゃるということが、お話の端々から伝わってきたら。

部下を思い、看護と向き合われ続けていらっしゃる藤原部長、この度は本当にありがとうございました。

 

 

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No.29 藤原佐和子様(済生会神奈川県病院)前編「成果が見えることは大きなこと」

No.29 藤原佐和子様(済生会神奈川県病院)後編「自分のしたい看護じゃなくて、患者さんとする看護」

病院概要

社会福祉法人 恩賜財団 済生会神奈川県病院

 

 

中 友美
A-LINE株式会社 代表取締役社長 シンカナース編集長
北区医師会看護高等専修学校 東京都立公衆衛生看護専門学校 東洋大学文学部国文学科 明治大学大学院グローバルビジネス研究科 経営管理修士(MBA) 日本大学大学院総合社会情報研究科 博士後期課程在学中 ニュージーランド留学 A-LINE株式会社/代表取締役社長 東京医科歯科大学非常勤講師 著書『わたしの仕事シリーズ2 看護師』新水社