No.22 阿部路子様(横須賀市立市民病院)後編「ひとつずつ丁寧に、自分自身でキャリアを積み上げる」

No.22 阿部路子様(横須賀市立市民病院)後編「ひとつずつ丁寧に、自分自身でキャリアを積み上げる」

  • 2017年7月21日
  • インタビュー
No.22 阿部路子様(横須賀市立市民病院)後編「ひとつずつ丁寧に、自分自身でキャリアを積み上げる」
No.22 阿部路子様(横須賀市立市民病院)後編「ひとつずつ丁寧に、自分自身でキャリアを積み上げる」

前編に続き、横須賀市立市民病院の阿部路子看護部長のインタビューをお届けします。

後編では、看護部長としての役割、8年前の病院大変革時の奮闘、新人教育に関するお話を伺っています。

看護部長と顔が見える、アットホームな病院の雰囲気が伝わってくるようです。

 

看護部長の役割は「人材確保」と「人材育成」

 

師長から副部長になられて、今度は看護部に入られたことでまた視点が変わってくるかと思うのですが。

 

阿部:やはり全体を見ると、役割は部長のほうがかえって明確なんですよ。

でも、副部長って、何をやっていいのか、どこまでやっていいのか、結構悩む時期もありました。

特に全体をやって、部長の補佐をして、というその時代があったから、部長になってあまり困らなかった。

困らなかったというのは嘘ですけど、見えていたというのはあると思うので。

 

その経験が得られて、そして部長になられたという。

今「部長の役割は明確だ」というお話がありましたが、具体的にどのような役割があるでしょうか?

 

阿部:病院の経営に対して、「看護部として何ができるか?」を常に考えてやっていかなければならないことが1つ。

また、「自分たちがやりたいことをやるには人材が必要だ」ということ。

つまり人材確保と、人材育成だと思っています。

すべて自分ができるわけではないので、その役割を担ってくれる人たちを育てることにあります。

そういうところを調整して、力を発揮してもらうような組織作りが部長に求められています。

 

経営全体と、目指す看護を作っていくための組織作りのところなんですね。

 

阿部:私がいなくても、看護部がガタガタしないような体制を作っていきたいと思います。

部長になった日から、次世代のことを考えないといけないと思っていましたから。

 

時代の変化と共に自分自身も進化し続ける

 

看護師が進化する必要性について伺いたいのですが。ナースの場合、次に自分がどう変わっていかなければいけないのか、次求められることは何かというのは、なかなか見えなかったりするかと思います。

部長の場合、例えば役割が変わってきたり、見る対象者が変わってきたりされていますが、部長自身の進化はどのようなものだったのでしょうか?

 

阿部:自分自身が進化してきたのか?と言われると、何も根本は変わってないように思います。

長年この病院で勤務している間に、社会的に大きな変化がありました。

その時にぶつかった問題・課題に、どう取り組むかによって、自分自身が変わってきたこともありますし、思い通りにならないことを思い知らされたこともあります。

でも、そういう時、いかに前向きに取り組んでいくかが大事なのかと、今考えれば思います。

 

何かに直面した時、そこから逃げ出さずに、そのものと真剣に取り組むんですね。

 

阿部:そうですね。逃げたら負けだという思いはすごく大きいです。

スタッフにも言っていますが、「とにかく逃げないことだよね」って。

逃げてしまったら、もうあとはありません。

見えないけどビジョンは見つかる、そう思いますし。

自治体病院で長い歴史を持った当院が、8年前に民間の病院に変わったんですね。

公務員から民間になるということがすごく大きなことでしたが、私たちは看護職として就職したので、公務員も民間も関係ないと思っていました。

でも、そうではない人たちがたくさんいて、100名近い看護部の職員が病院を去りました。

その後の人材確保は非常に大変なものがありましたが、でもそういうことがあった時に、そこで諦めなかったから、今が少しずつ見えるようになったのかな?と思いますね。

でも、一人ではなく、当時の部長や師長が一緒にやってくれて知恵を貸してくれました。

そういう部分では、「ピンチがチャンス」とはよく言ったもので、物事考え方次第ですね。

100名のスタッフがいなくなったことを「もしかしたら自然淘汰だったのかもしれない」ととらえて、「新たに人を集めて、自分たちが目指すものを作り上げていこう」という方針で課題と向き合いました。

そういうことを副部長時代に体験できたことが、きっと部長になった時に、「やらなきゃならないことをやらなきゃならないんだ」という、覚悟につながったのだと思います。

部長という役割を引き受けた時、その役割をやろうという覚悟ができるかどうか、そう自分に問いかけました。

 

すごく良いですね。その仕事にも、そしてどの役割の部署にも共通していることですよね。

 

阿部:そうですね。

よく陣田先生が講演でお話しすることで「こんなたくさんの世の中の仕事の中から、看護職を選んだのだから、それを選んだということは覚悟を持つということ。」とあります。本当にその通りだと思います。

ですから、新人さんは本当にたくさんの職業がある中で看護職を選んで、この病院を選んで入職してくださるわけですから。

「来たからには、どうしたらいいか覚悟して、その代わり私たちは、あなたたちを丁寧に育てます」というのが、当院の教育方針なんですけど。そういうところですかね。

 

選択をしたということも、自分に自覚をさせるという部分で、まず自分が選んだということをはっきりと理解してもらっているところから、次に向かっていくということなのでしょうね。

 

阿部:なんでもそうですけど、人のせいにする人は、やっぱりいつまで経っても「誰かが」とか「周りが」と言い続けますからね。そういう人はどんなに専門職としての能力が高くても、人としてはどうかな?と、私は思っています。

たとえ器用でなくても、何年かかければきちんと仕事が出来るようになります。

ただ、一生懸命だとか、他の人ときちんとお話ができるのかといった部分が大事だと思っています。

多様化する新人看護師の教育背景、共通課題はコミュニケーションスキル

 

やはり時代的にも、以前の教育体制と、最近のかなり手厚い教育体制では大きく違いがある中で、一旦就職してからもう一度教育をするというような状況になるかと思うのですが、こちらではいかがでしょうか?

 

阿部:当院はまだ大卒の比率は少なく、同じ新卒でも専門学校・高等学校専攻科という違いがあります。社会人経験や、大学を出てから看護学校に入り直したという方が、年々多くなってきています。

それぞれ背景が違うので、教育がとても難しくなってきています。

しかし、看護師として押さえなければならないところは一緒ですので、そこはラダー制の教育体制を取りながら、力を入れてるところです。

社会人としてどうなの?という時もありますので、その時は師長社会人としてのマナーとか、ルールを確認するようにしています。

それは、病院の中でしたら、私たちが何とかフォローできますが、対外部のこととなったら、病院の質を問われ兼ねない部分ですから、そこは結構厳しく言っています。

 

やはり、看護のスキルの部分だけではない、一般的なコミュニケショーン能力が本当は必要なこともありますよね。

 

阿部:その通りです。

スキルは経験していけばある程度身に付きますけど、人として社会人としてという部分になると、ある程度出来上がった人を簡単には変えることができませんので、周りがどうサポートしていくかっていうことを考えていく必要があります。

私の基本は、医療安全に通じることでもありますが、やるべき事とやってはいけない事、それをしっかりと守ることです。

 

そうすると、はっきりと言葉で伝えていくことが必要なのでしょうか?

 

阿部:そうだと思いますね。

ただ、言葉で伝えるというのはとても難しいですね。

師長の能力や経験もありますので、同じようにはなかなかできません。

スタッフを一人ずつ見るのと同じように、師長も一人ずつ見て指導しないといけない部分が多いです。

研修会に行って学べることと、日々現場で起きていることの対処方法を学ぶことは、またちょと違うわけです。

私の管理室は廊下に面していつもドアが開いているんですが、スタッフの更衣室はここを通らないと行けないようになっています。

私は朝早く来ていますので、朝や帰り、お昼休みに新人さんが歩いてるのを見て、顔色や体調も全部見ることができます。

また、研修レポート等の提出先は私の部屋になっているので、絶対に通らなければならないんです。

 

部長とも院長とも顔が見える、アットホームな環境

 

部長に顔が見える感じがいいですね。

 

阿部:そうですね。院長と私は、「夜間に変化なかったかな?」と気になるところもあって、2人とも病院にいる時には、1日に1回は必ず全病棟を回るんです。

院長は、とにかく自分たちがここにいるんだということをスタッフに分かってもらうことが、僕たちの役割だという考え方なので。

6階からまわっていくのですが、ナースステーションに入って師長か代行者に、「今どうですか?何か困ってることないですか?」と聞くと、その時に「この患者さん、こんな事が今問題になってて」とか「今こういうことが病棟で困ってて」など言うんですね。

それを隣で院長が黙って聞いていて「そうか、ごめんね」「僕から言っておくよ」と言ってくださるんですよ。

そういう姿は、アットホームな病院のイメージをみんなに与えるようです。

インターシップに来た学生さんたちの中には「とてもアットホームな病院、玄関入った時にそう感じました」と言ってくれる人がいるので、それが当院の強みになるのかなと思います。

ちょっとアクセスの悪い、あまり特色のない病院なんですけど。でも地道に人が集まってきた理由、集められた理由はそういうところにあるのではないでしょうか。

私も看護部に所属の人はほとんど名前と顔を覚えてますし、院長はほとんどの職員の顔と名前を覚えていますから。

 

トップと近い距離間は、スタッフの方たちにとって「自分を知ってくれている」という意味では、大きな励みになりますね。

 

阿部:そうですね。病院の規模もあるかと思いますが、方針によるところが大きいですね。

普段看護部長の顔を見る機会がない病院もありますから、そういう面では一番近いと思います。

そのおかげもあってか、離職率が低いことも特徴です。
神奈川県全体の離職率が約13%ですが、当院は去年が8.4%、一昨年は6.1%と最も低い推移です。

 

すごいですね。

 

阿部:「何でそんなに離職率が低いの?何をやってるの?」と、他の病院の管理職の人からよく聞かれます。

何かと聞かれても的確に答えられないのですが、入職者が少ないので、必然的に辞める人を少なくする仕組みを作ることになるわけですから、そのためにきめ細かい教育をすることに重点を置いてきました。

長く働いていただくことは必要な担保ですから。

毎年新人が代わりがわりだと、疲弊しちゃいますよね。

そういう面では、これからもこの方針を継続していきたいと思います。

当院は環境は良いのですがアクセスが悪いですし、若い人を呼び込むにはなかなか難しいところではあります。

 

子育て世代には非常に良い場所ですものね。

 

阿部:そうなんです。山も海もあって、子供を育てるにはとっても良い環境だと思います。

年に1度のクルーズで非日常を満喫し、孫との日常で健康を維持

 

仕事以外で楽しんでいらっしゃることはありますか?

 

阿部:私自身の趣味は特にないのですが、年に1回、主人の趣味であるクルーズに一緒に行っています。

現場から本気で離れられますので、私にとってもいい機会になっています。

長い休みは取れないので、日本の周辺を3泊4日、もしくは4泊5日くらい、日常から全く離れて、それでも普段のことを忘れられるのは1日ぐらいかかるんですよ。

それからまた気持ちを新たにして、結構楽しいですよ。

 

2人で海に出られるなんて素敵ですね。

 

阿部:そうですね。行った先々でいろいろなイベントに参加しています。

お食事も美味しいですし、飽きないですね。

去年は阿波踊りに参加して実際に踊ってきました。

そしたら4歳の孫に「ばあば、すごい疲れてるよ」って言われちゃいました(笑)

 

船を降りて、そのままお祭りに行かれたのですか?

 

阿部:そうです。

船を降りて着付けしてもらって、とても良かったですよ。

自分の趣味はなかなか・・・これからは何をしようかなあとは思ってますけど。

今は、部長職も忙しいですけど、家では長女の子供の面倒を見るので忙しくって。

ばあばを充実させています(笑)。

 

お孫さんがいらっしゃるんですね。

 

阿部:もう振り回されてます。

本当は「部長職って生活感出しちゃいけないよね」と言っていたのですが、目標があっていいかなと思うようになりました。

帰ると孫にご飯食べさせたり、お風呂入れたり、寝かしつけたり。逆に孫の世話をすることで健康、体力が維持できているのだと思います。

 

優先すべきことを考えて自分で決断し、後悔のないキャリアを

 

一番最初に部長がおっしゃったような、結婚・出産・引っ越しなど、ライフイベントを受け入れながらもできる範囲で働くという「自然体」を維持しながら、看護をずっと継続されているスタイルは、今後多くのナースが求める姿ではないかと思うんです。

 

阿部:本当に「えらいなあ」と思うのは、看護一筋にやってきて、立派な業績を残されている方たちだと思います。

なんであんなにできるんだろう、と見てて思うんですけど。

私はこんなに続けられるとは思ってなかったですし、でも私自身が常勤・パートといろいろな働き方をしてきた経験がありますから、いろいろな働き方があることに対して肯定的に考えています。

「自分が今何を一番優先に選ばなければならないか」ということを考えて、自分で決めれば後悔しないということを、結婚する人や育休に入る人たちに伝えたいですね。

潜在看護師の方から「しばらくブランクあるけど、働きたいんです」という問い合わせが来ることがありますが、そういう時も「どういう形だったら、どれぐらいからだったら戻れますか?」と聞いて、「急がなくて良いんですよ」と伝えています。

パートで少ない時間から始めた人が、少しずつ勤務時間を増やしていることもあるので、そんなに深く考える必要ないんじゃないかと思ってます。人それぞれの人生ですし。

女性は結婚や出産などライフイベントによって生活スタイルも大きく変わりますが、看護師の資格を持っていれば、どこに行っても仕事ができるわけです。

でも、どこに行っても仕事はできるけど、一つずつ大事に積み重ねることでしか私たちのキャリアはない、そうやって一生懸命説得してます。

 

新人さんと関係を構築していく時も、壁は作らず入っていくタイプなのでしょうか?

 

阿部:そうですね。

新人さんとの距離間は、お母さん感覚かもしれません。

もうすでにお母さんよりも上ですけど(笑)。

話しかけると、みんなニコニコして、あまり垣根ないです。

こんなに緊張感なくて良いのかな?と思うんですけどね。

「私って全然怖くないんだね」と家で言うと、娘からは「いや、お母さん十分怖いよ」と言われてしまいます。

 

あったかくて良いお話ですね。

 

阿部:以前、看護学校のクラス会で師長になったことを伝えたら「学生時代からなるような感じの雰囲気だったよね」と言われました。

「そんなことないでしょ?」と返したら「みんながそう思ってたよ」と言われて。

 

学生の頃からビジョンがあったり、人を見る視点が違ったりという部分があったと思うので、なるべくしてなったという印象が同級生の中にはあるのでしょうね。

最後に、これから就職する看護師・看護学生に向けて明るいメッセージをお願いします。

 

阿部:数多くの職業がある中で看護師を選ばれるわけですから、その魅力や醍醐味を感じていっていただきたいと思っております。

そのためには、自分自身を鍛えながら、やはりやるべき事をしっかりやって、やってはいけない事はしない。

それは基本ですので、そういう事をしっかり考えながら進んでいっていただきたいと思います。

キャリアは自分自身が積み上げるものですので、自分自身がどれだけ・どういう思いでこの仕事をやっていくかという事が、初めは分からないかもしれませんけれども、ひとつずつ丁寧に積み上げていっていただきたいと思います。

シンカナース編集長インタビュー後記

阿部部長はお会いした瞬間から温かい笑顔で、取材陣全員を迎え入れてくださいました。

ご自身では、意識して穏やか、柔らかい雰囲気を作っているとのことでしたが、壁を作らない優しさは人として、管理職として素晴らしい方だなと感じます。

話をお伺いしながら、コミュニケーションを大切にされていること、ご自身が自らスタッフの中に入り話を聞かれることなど、壁のなさは行動としても実践されていらっしゃいました。

多様なライフスタイルや働き方を受け入れられる職場作りを実践されているのも、ご自身の経験を活かし、後輩たちの働き易い環境作りに活かされているれているということもわかりました。

また、ただ単に新人を甘やかすということではなく、看護の道を選んだ側にも「覚悟」を持ってもらう。

その分、受け入れる側も「覚悟」を持って丁寧に育て上げる。

これこそ、双方向コミュニケーションとしても、看護師として独り立ちしていくにしても大切なことだと感じました。

新人看護師側からの、教育して欲しい、育てて欲しいという要望だけでは関係は成り立たない。

とても素敵なお話を伺えて、また穏やかさ、温かさを感じさせていただき勉強になることばかりでした。

阿部部長、この度は本当にありがとうございました。

 

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病院概要

横須賀市立市民病院

 

中 友美
A-LINE株式会社 代表取締役社長 シンカナース編集長
北区医師会看護高等専修学校 東京都立公衆衛生看護専門学校 東洋大学文学部国文学科 明治大学大学院グローバルビジネス研究科 経営管理修士(MBA) 日本大学大学院総合社会情報研究科 博士後期課程在学中 ニュージーランド留学 A-LINE株式会社/代表取締役社長 東京医科歯科大学非常勤講師 著書『わたしの仕事シリーズ2 看護師』新水社