No.187 鶴巻温泉病院 鈴木龍太 院長 前編:多機能型の慢性期病院

インタビュー

今回は鶴巻温泉病院の鈴木先生に、地域包括ケアが必要とされる社会的背景と、現状の課題、

その中で特色を発揮する鶴巻温泉病院の存在意義などを語っていただきました。

待ったなしの医療改革

中:今回は鶴巻温泉病院病院長の鈴木龍太先生にお話を伺います。

先生どうぞよろしくお願いいたします。

鈴木:こんにちは。

今日はまず、いま話題の地域包括ケアをまだご理解されてない方もいらっしゃると思いますので、

そのお話をしてから鶴巻温泉病院の紹介をさせていただきます。

中:ありがとうございます。

よろしくお願いします。

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鈴木:団塊の世代の約800万人が後期高齢者となる2025年以降、

国民の医療や介護のコストが莫大なものになると予想されます。

高齢者が増えるにつれて認知症も増え、2025年には700万人になると言われています。

その対応も待ったなしです。

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厚労省は「ときどき入院、ほぼ在宅」と呼ばれる在宅医療を主軸に置いた

地域包括ケアシステムを推進しています。

一般病床を減らし、回復期や療養病床を増やしながら、病院全体の病床は減らす施策です。

一般病床と回復期・療養病床の差異を端的に言えば必要な医師数の違いで、

前者は患者18人に対して1人、後者は48人に1人、医師が必要とされます。

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看護師についても同様な差異が設定されています。

在宅医療の推進については、介護の担い手が足りないという問題に直面しつつあります。

現在すでに40万人不足していて、今後はより深刻になります。

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地域包括ケアのポイント

中:日本の医療は大変なことになりそうですね。

鈴木:地域包括ケアが必要な理由はまだあります。

それは人口当たりの病床数の地域差です。

10万人当たりの病床数はここ神奈川県が全国一少なく859床、一番多いのは高知県の2400床で、3倍の開きがあります。

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一般に都市部で少なく地方で多い傾向があり、しかも地方は都市部より早く高齢化が進んだため、

これからは高齢者があまり増えません。

よって、全国均一な医療計画ではなく、

地域ごとに実態に即した計画を策定していく必要があるというわけです。

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地域包括ケアでは急性期よりも慢性期医療のウエイトが増えます。

慢性期の患者さんは高齢者が多く、多病なので一つの病気や臓器別の疾患を治すだけでは元気になりません。

また病気を治すだけでなく、患者のQOL向上を目指す視点が必要です。

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さて、ここまでの話を前提に、当院の紹介をさせていただきます。

ふつう患者さんが病院に入院する場合、

腹部の病気なら消化器科病棟でしょうし、骨折なら整形外科病棟ですね。

ところが当院にはそのような病棟はありません。

そこが大きく異なります。

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当院の病棟は、回復期リハビリテーションや療養病床、地域包括ケア、緩和ケアといった

目的別、ステージ別に分類されています。

慢性期の患者さんは高齢者が多く、

急性ストレスに対する耐性が少ない「フレイル」に該当することが少なくありません。

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フレイルでは、疾患に対する積極的な治療が必ずしもベストというわけではなく、

時には治療をしないという選択肢もあり得ます。

個々の患者さんの予後やQOLを考慮しながら、

看取りも含めて多職種のチームで進める医療が慢性期の特徴です。

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中:それが貴院、鶴巻温泉病院の位置付けということですね。

鈴木:当院は神奈川県秦野市の南に位置します。

秦野市と隣の伊勢原市は、海に面していないのに「湘南」と呼ばれます。

行政上の分類によるもので、我々の責任ではありません。

秦野を含む湘南西部医療圏の人口は約58万人で、2025年ごろにピークを迎え、その後は減少していきます。

このような地域特性を考えながら今、病院経営を行っています。

中:患者さんは地域住民の方が多いのですか。

鈴木:以前は東京や横浜からの患者さんが40%を占めていました。

ただ最近、都市部にリハビリ専門病院が増え、その割合は10%まで低下し、

病院の近隣の患者さんが増えています。

医療目的別の病棟構成

中:先ほど病棟の概略をご解説いただきましたが、もう少し詳しくお聞かせください。

鈴木:当院は多機能型慢性期病院です。

まず、回復期リハビリテーション病棟を県内で最も早く開設しました。

脳卒中や大腿骨頚部骨折などの患者さんが、急性期を過ぎた後、集中的にリハビリをするところです。

神経難病の患者さんにリハビリを提供する病棟もあります。

パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症などで、頭はしっかりしているのに手足がだんだん動かなくなる

という、たいへん辛い状況の患者さんがリハビリされています。

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これらの疾患は経過が長いため、在宅で医療・介護を受けている方もいます。

すると介護をされる方の疲労が蓄積しますので、たまに休んでいただくための

「介護休暇入院」「レスパイト入院」という制度があり、当院は県内で一番多くこれを受け入れています。

緩和ケア病棟は、いわゆるホスピスです。

主にがんによる身体的な痛みと精神的な痛みを緩和するための病棟です。

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地域包括ケア病棟は数年前に開設した新しい病棟です。

在宅療養されている高齢者の肺炎など「サブアキュート」と呼ばれる状態で入院され

治療やリハビリで元気になられたら、ご自宅にお帰りいただきます。

療養型病棟には、脳卒中などで寝たきりになり経管栄養や呼吸器が必要な患者さんが入院されています。

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中:ひと口に慢性期病床と言いましても、非常に幅広く、目的ごとに細かく対応されているのですね。

鈴木:リハビリ機能しか持たない場合、

リハビリ期間が終了したら他院に転院したり在宅に移行しなければいけません。

しかし当院なら病棟を移れば良いのです。

急性期後のポストアキュート、在宅・介護施設の患者さんのサブアキュート、リハビリ、

そして看取りも含めて、一生面倒をみさせていただける病院です。

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後編に続く

Interview Team