No.3 工藤潤様(上尾中央総合病院)「つながっていられる。励ましあえる仲間がいる」1/3

インタビュー

第3回目のインタビューは上尾中央総合病院の工藤潤(くどう じゅん)看護担当特任副院長です。看護師になろうと決めた背景には意外なことが関係していました。「看護師をずっと続けられるかわからない」と思っていたというものの、辞めることなく確実にキャリアアップを重ねていらっしゃいます。インタビュー前半では、これまでのご自身のキャリアや趣味、また、看護学生から非常に関心を集めているというジョブローテーション研修について伺いました。

ロックな看護師の誕生

看護担当特任副院長になるまで、どのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか  

工藤:22歳で看護師になり、外科病棟・手術室・透析・救急外来等たくさんの部署で経験を積みました。何でも興味がわいてやってみたかったんですね。看護師だけでは物足りず、何かしら資格をとろうとチャレンジしました。救急救命士の資格をとったり、料理が大好きなので調理師の資格をとったりもしたんです。資格がとれたら次はやってみたくなりますよね。ちょうど居抜きの物件があって25歳で居酒屋を始めました。当時は副業も認めてくれる職場環境で、昼は手術室で勤務しながら夜は居酒屋経営という生活を5年間続けたんです。

係長(主任)・課長(師長)を経て32歳で関連病院の1つ、三郷中央総合病院の看護部長に就任しました。ちょうどその頃「7:1」ができて、教育や採用に取り組んだことで看護部を軌道にのせることができたんです。居酒屋での経営経験を病院経営でも活かし、「どうやったら原価をさげられるか」といったことを比較しながら考えましたね。 経営に関してはわからないことも多かったので産業能率大学で学んだのですが、理論と現場がマッチして「経営っておもしろいな」と思うようになりました。

その後、前任の看護部長が定年になるということもあり、38歳で当院の看護部長として転勤しました。当時まだ埼玉県内では2つの病院しか「7:1」をとっている病院はなかったので、理事長からは「早くこの病院を7:1にしてくれ」と言われ早速とりかかりました。

就任から10年、今年の3月まで看護部長を務め、4月からは特任副院長という立場になり、関連病院の看護を統括する本部の仕事も加わりました。まさか自分が管理をやるとはまったく想像していなかったですね。

管理職を目指していたわけではなかったのですか  

工藤:まったくなかったですね(笑)。当時男性看護師はまだまだ少ない存在で「一生看護師として働けるか」という不安もありましたし、実は看護師は保険のための資格でした。今もそうですが、当時音楽活動をやっていたんです。「音楽で食べられなくても看護師の資格があれば安定した生活した上でバンドを続けられる」そんな思いから看護師として働き続けることを選びました。中学からギターを始めてすっかりハマってしまい、今はハードロックバンド5つを掛け持ちしています。ライブもするんですよ。

そもそも看護師を目指したきっかけは、子供の頃に入っていたボーイスカウトです。老人ホームにボランティアで行った際に食事介助をして「ありがとう」と拝まれたことが純粋にうれしかったという印象が残っていて、その経験が進路選択の際に影響を与えてくれました。

ミュージシャンとしての活動は、看護でも役立っていて老人ホームでのボランティア活動として夫婦のユニット「KIJU」として演奏しています。寝る前は必ずギターに触るのが日課で、心の安定のためには欠かせませんね。

最近はダイビングにもこっていて、今年の3月にプロダイバーのテストに合格しました。子供にもダイビングをやらせたいなと思ったのがとった理由ですが、これは本当に大変でしたね。海で休まずに800m泳いだり、疲れたダイバーを沖まで運んだり、海が美しいサイパンで8日間頑張りました。趣味があるから仕事も頑張れる、これに尽きますね。

新人も先輩も成長させる”ジョブローテーション研修

「平成22年から新人看護師の離職ゼロ」という実績はどのように実現されたのでしょうか?  

工藤:以前埼玉県内の新人看護師離職率は8%台で経過していました。新人が辞めないということがなかった、そんな時代でした。ある時日本看護協会が「新人看護師が1年以内に辞める理由」という調査を目にしたんです。調査結果の上位3つはこうでした。

1位:養成所卒業 

2位:希望する配属部署に行けない  

3位:困った時に相談できる仲間がいない 

私はこの2位と3位に着目し、これらを解決すれば新人看護師が辞めることなく勤務し続けるのではないかと考え、当院看護部の”売り”でもある「ジョブローテーション研修」を提案しました。「希望する部署に配属し、相談できる仲間を作る」これらを実現できる研修です。

ある年、新人看護師115人中110人を希望部署に配属しました。希望者が重なった場合はうれしい悩みですが、希望者ゼロの部署の対応に頭を抱えました。そこに新人看護師を配属してもそもそも希望していない部署なので辞めるリスクが高い。それならば1年間新人看護師ゼロでやってもらおうことにしました。そうすると「なぜ自分の部署が新人に選んでもらえなかったのか」をスタッフたちは考えて対策するんですね。その結果その部署は成長し、翌年は希望する新人看護師が出てくるので、2年連続希望者ゼロという部署は1つもありません。ローテーション研修中は各部署で新人争奪戦が行われていますよ。新人教育をしっかりやるし、雰囲気も良さそうに見せるし(笑)。研修が始まる前に「みんなだまされちゃダメだぞ!」と私がアドバイスするほどです(笑)
新人看護師だけでなく先輩であるスタッフや管理者、お互いにメリットがあるわけですね 
工藤:また、新人看護師の中でも穏やかな病棟に行きたい人、厳しく教えられる病棟に行きたい人に分かれます。研修では全部署をローテーションでまわるので、時間外の多さや忙しさ、スタッフの雰囲気を理解した上で配属希望を出すわけです。知らないで配属されると不満になりますが、知ってて行けば多少きつくても文句が出ることはありません。

半年くらいの新人看護師たちが「今私たち○○ができないから□□をやらないといけない」 「早く夜勤できるようになりたい。そのためにはこれができるようにならないと」と言ってくるんです。以前よりも新人看護師の自立が早いように感じています。
自分で選んだという責任があるわけですからそれを果たそうと努力するのでしょうね 
工藤:4〜5人のグループで研修をまわるのですが、実習グループのような仲間意識ができて同期のつながりができるんですね。3ヶ月の研修中は新人看護師100人が毎日顔を合わせる時間を確保しています。そうすると、研修が終わる頃には全員の顔と名前が一致するんです。その後配属が決まってバラバラになってもつながっていられる。励ましあえる仲間がいると時に凹むことがあっても立ち直りが早い印象を持っています。それが離職ゼロにつながっているのだと思います。

<シンカナース副編集長 インタビュー後記>

”ロックな看護部長” という名がぴったりではないでしょうか。音楽活動を続けるために看護師を選択したはずが、本人も想像しなかったグループの看護部全体を統括する立場になった工藤副院長。多忙なスケジュールの合間を縫って趣味の音楽を楽しみ、それを仕事にも活かしてしまう姿はなかなか真似できることではありません。

また、自身が発案したジョブローテーション研修は、新人看護師の離職ゼロ・口コミによる全国からの就職希望者の確保といった実績へとつながっています。相手が何を必要としているのかを把握し、新人だけでなく看護師全員が成長できるこのシステムは、今後も進化し続けていくに違いありません。

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